台 詞 で 創 作 1 0 0 の お 題
[ 46 ] 論理の飛躍どころかワープだって、ソレ

 真剣に向き合う男が二人。
 その二人の間には黒線で区切られた緑色の盤があった。
「それでは始めようか」
「ウン、嫌だね」
 ……。
 片方の男が眼鏡を指の腹で押し上げながら言った台詞を、もう一人の男がズバッと遮った。
「何故?折角用意したというのに」
「何故も何もないよ。何でこういう事になるワケ?」
 ズビッと指差した先は緑色の盤で、真ん中の4コマに黒白それぞれのコマが2つずつ交互に置かれている。
「何で、って……それは仕方ないだろう、真偽を確かめなければならないのだから」
 すぐにずり落ちるらしい眼鏡をまた押し上げながら男は言う。
「だーかーら!!何の真偽だよ!ここで例えばボクが“ボクはオセロが大得意なんだ!きっとロンドン1なんだ!”とか言ったとするよ?それで、それが本当なのか確かめる為にキミが対戦を申し込んだ――それならまだ筋が通っているというモノさ。
 でも、違うだろう?!」
 サッと振り払う手、それが鼻先を掠めたが、眼鏡の男は微動だにせず「やれやれ」と肩を竦めた。
「違う事なんて何もないさ。全く同じ事だよレイン。私はただ――」

「地球が本当に丸いのか、どうか、って?!」

 眼鏡の男の言葉を遮って“レイン”と呼ばれた男がこう言った。
「丸いに決まっているじゃないか!もう何人もの宇宙飛行士が宇宙から確認してる!人工衛星だって幾枚もの写真を出しているじゃないか!それを何で今更そんな――バカげた話をしているんだい!」
 「やれやれ」と言いたいのはこっちの方さ!、とレインが言う。
 その剣幕に驚いたような眼鏡の男は若干目を見開いていた。しかしすぐに目を細め、首を横に振る。
「レイン……君はなんて頭が固いんだろうなぁ。そんな風で探偵役なんて務められるのかな?」
 その言葉でレインの頬がカッと赤く染まる。
「それがコレにどう関係あるって言うんだい。大体キミには関係無いじゃないか。あのゲームはボクとレオルだけのゲームだ!」
「――そうとも、言えないんだがね」
「え……?」
 眼鏡の男は一冊の本を手に取り、ページを開く。
「レインが探偵で、レオルが怪盗。けれど君はいつまで経ってもレオルを捕まえる事が出来てないようじゃないか」
「そっ、それがキミに何の関係が!」
「――捕まえられないのは、レイン、君の能力も関係あるかもしれないが……それよりも優秀な助手が必要だと思わないかな?」
 くいっ、と眼鏡が押し上げられる。
 レインは思わずその顔を凝視した。……不敵に笑むその表情が実に怪しく見える。
「かのシャーロック・ホームズにもワトスンという相方が居た。彼は探偵としての能力があったわけではないけれど、ホームズの推理の助けに随分となっていたようじゃないか」
 ペラペラと捲られた本はホームズ全集。最新のものでは挿絵が立体映像だったりするが、これは所謂“骨董品”レベルの昔の物だった。
「だから、レインにも助手が必要だ――と、そう思ったわけだ」
 ウンウンと悦に入って頷きながら眼鏡の男はそう言った。
 しかし盤を挟んだ向こう側、レインと呼ばれている男はとてもそんな状態にはなれなかったらしい。
「……じょ、冗談じゃない」
 手をわなわなと震わせながら、
「リアルでこうしてキミと顔をつき合わせているっていうだけでも嫌なのに、なんだってゲームの中まで一緒じゃなくちゃならないんだい!アレはボクとレオルだけのゲームなんだ!そ、そうっ、もしボクがここで承諾したって、きっとレオルは嫌がる――」
「あぁ。レオルは快諾してくれたぞ」
 ……微かな沈黙の後、レインは驚愕の声を上げる。

「なんだって?!」

「以前、プレイヤーが増えるのは別に構わないと、そう言っていたからな。遠慮なく参戦を申し出た所二つ返事で承諾してくれたというわけさ」
 だから諦めろ、と言わんばかりに眼鏡の男が不敵に笑う。
「そんな……!レオル、ボクがコイツを嫌いだって知ってるのに!こんなクソ家庭教師、海の藻屑になれば良いっていつも言ってるの知ってるのに!!」
「――レイン……君、いつもそんな事を……」
 ややずり落ちた眼鏡を直しながら男は苦笑いをした。



「まぁ、いいや。キミがゲームに参戦する事を認めてあげなくもないよ。――助手云々は聞かなかった事にするけどネ」
 しばらく喚いていたが、やっと落ち着いたらしいレインがオセロのコマを一つ手に取った。
「それは手厳しいな」
 眼鏡の男も同じようにコマを手に取る。
 そして、黒と白、両面を裏返しながら「どちらの色が良いかな?」と言った。
「別にどちらでも構わないさ。ただ、これだけは聞かせて欲しいかな」
「ん?」
「――このオセロの勝敗で、“何の真偽”を計る……って?」
 目の前の男を見据えて言う。
「何、って。さっきも言っただろう――地球が丸いのか――」

「だから!それがわけわからないって言いたいんだよ、ボクは!大体何だい、キミは!
 “地球は丸いって言うけど、全ての世界で全ての星が丸いとは限らないと思わないか。……よし、地球が本当に丸いのか、真偽を確かめようじゃないか”って、わけがわからないにも程があるよ!しかもそれをオセロの勝敗で決めようって言うのがますますもって理解し難い!」

 すごい剣幕のレインを呆気に取られたように眼鏡の男が見ていた。
「ちゃんと聞いているのかい、レガッサ!キミはいつもそうすかした態度でいるけれど――」
「あぁ、聞いているともレイン。私はただ、君のあまりの頭の固さに驚いていただけだ」
「なっ?!」
 ふー、やれやれと眼鏡の男が首を振った。
「誰が、いつ、“この世界の地球”だ、と言ったのかな?」
「……は?」
 レインの口が開いたまま止まる。眉間に皺がよって頭にはきっとクエスチョンマークが満載だろう。

「確かにこの、今住んでいる星は丸いさ。それは認めよう。
 けれど、どこか別の世界――そう、例えば君達が興じている遊びの世界の地球まで丸いとは限らないだろう?
 あのゲームは確かプレイヤーの意識で世界の本質をも変える事が出来ると聞く。だから“世界を形作っている”君と何かしらする事でそれがわかるかな、と思ってな。――勝っても負けても、このゲームにどれ程気合を入れて臨んだかによってその真実がわかろうと言うものさ」

「…………。……」

「君が全ての世界の地球が丸いと信じているなら迷い無く一手を打ってくるだろう。けれど、どこかに迷いがあったならきっと手筋にも影響を与えるというわけだ。そして迷いがあるという事は、まだ“ゲームの世界の地球”が丸いとは限らない――どうだい、素晴らしい推理だと思わないか」

 ふぁさ、と前髪をかきあげながら語るレガッサに何も言い返せないまま呆気に取られていたレインだったが、やっとの事で現実逃避を終えたようで、首を横に振った。
 そして、
「思うワケ――無いだろうっ!!!」
 一喝。
「なんだいそのめちゃめちゃな推理は!論理の飛躍どころかワープだって、ソレは!いつも思うけど、そうやって自分にしかわからない事を次々言う癖やめたらどうなんだい、他の人には全くわかっていないんだからさ!」
「はぁ、だから君は頭が固いと――」
「キミの頭がおかしいだけだ!! ボクはキミのそーいう所が一番嫌いなんだよ!!!」



 *



「というわけでレインを怒らしてしまったから、当分そちらのゲームに参戦する事は叶わないようだよ」
「……ンな事言ってたら当たり前でしょーが。貴方もそんな風にレインにつっかかるのやめたらどうです?」
「そんな事言われても、面白いんだからしょうがない」
「そういう所が嫌われてるんじゃないんですか」
「――……レオル、君もなかなかに辛辣な態度じゃないか」
「ご理解頂けているようでありがたい限りですよ、レガッサ」

「まぁ、いい。私はまだ諦めていないから、すぐにでもレインを説き伏せて参戦してみせるよ」
「――ふふ、せいぜい頑張ってくださいね……助手Lさん?でしたっけ」
「そう。ゲームの中でのうのうとしてられるのも後僅かという事だよ、怪盗R君」

 受話器の向こう側で聞こえる笑い声にレオルは若干顔をしかめながら声色にそれを乗せないように気をつけて言葉を紡ぐ。
「それではこの辺で失礼しますよ。俺もそう暇じゃないんで――」

 ガチャリ

 何かまだ話していたらしい回線は一方的に切られた。
「……俺もアイツは苦手だ――けど、ゲームの中でこてんぱんにやっつけられるならいいかなぁ、と思ったんだがなぁ……」
 これは早まったかもしれない、と頭を抑えながらレオルは思った。
 願わくば、レインが説き伏せられませんように――と。
ゲームの話。レガッサはLegthaとか。だからなるなら助手L。
一番わけがわかってないのは、きっと書いてる自分です。……なんなんだこのキャラ……。(おま

2009.3.23.