台 詞 で 創 作 1 0 0 の お 題
[ 40 ] 叱られたら逆ギレ、これ基本。

「だからね、オレは思うワケですよ。叱られたら逆ギレ、これ基本。ってね!」
「ほう、じゃあそこになおれ。その頭木っ端微塵にしてやるから」

 目の前に正座しながらもいけしゃあしゃあと戯言をぬかすヤツに一言、私はそう言った。
 そうするとヤツは実に理不尽そうに眉をひそめる。
「だって!全然オレのせいじゃないのに、怒られたってヤんなるだけじゃないっスか!!」
 バムッと床を叩いて抗議。
 そして自分は悪くない、と威張った顔でそっぽを向いた。
「……お前な、そういう事してると、いつかどっかで殺されるぞ」
 ハァ、と大きくため息をつきながら近くの椅子に腰掛けた。
「大体、“オレのせいじゃない”って、そんな言い訳が通るわけないって少し考えればわかるだろうが」
「――……頭悪くってすいませんね〜」
 目の前のヤツは、やっぱり反省の色を全く見せずに、そうのたまった。



 * * *



「というワケでさ、もうこの一週間散々だったよ」
 すすめられた椅子に座り、テーブルに出現した紅茶を頂く。――ふぅ、やはりここは落ち着くなぁ。
「ははは、それは確かに大変でしたね、クオンさん。カーティスのヤツもいい加減にしろって話ですよね」
 左斜めの、<H>の席に座る彼がほがらかに笑いながら言った。
「そう思うだろう?……本当、早くどっかに飛ばされないかなあの馬鹿」
「まぁ、そう落ち込まずに。今日は特製のお茶ですからね、それで気持ちを癒してください」
 特製だと言われたそのお茶は確かにいつものとは味が違い、どこか懐かしい気持ちになった。
「これは……もしかして、パピラスのお茶かい?昔よく飲んだよ。こんな所で飲めるなんて思わなかった」
「ふふ、特別に頼んで持ってきて貰ったんです。クオンさんが好きだって聞いて、お出ししてみました」
 口に含むとすぐに甘酸っぱい香りで満たされる。若干の渋みと苦味はあるが、それもまたアクセントになっているのだ。
「ありがとうヘルメス君。おかげであの馬鹿のせいで傷ついた心が癒されるよ」
 肩をすくめながら冗談混じりにそう言うと、「それは良かった」と、彼は笑った。

 と、その時だった。
 ぶしつけに――そう、とてもぶしつけに“あの馬鹿”がやってきたのだ。

「っちーっす!ヘルちゃんいるー?」
 何の前置きも無く突然空間に現れる。これはつまり、インターホンを押さずに勝手に家の中に入ってくるようなモノだ。……不法侵入極まり無い!
「カーティス!出現する前にお伺いを立てたりするべきだとは思わないのか!突然現れたりして、失礼にも程があるぞっ!」
「――あれー、うわー、課長、居たの……」
 うげー、と言っているのが目に見えるような表情でヤツは言った。
 そしてくるっと回ってその場から消えようとするが――

「カーティス、勝手に入ってきて、すぐに出ていくのか?……そんな事するんなら、次からもう絶対入れないから」

 ピシャリとヘルメス君が言ったので、渋々とも一回くるっと回ってこちらへやってきた。
 ヤツはさも当然のように<C>の席に座る。――私の向かいの席だ。

「……課長が来るなんて聞いてないっスよ。なー?ヘルメスぅ」
「ちっちゃい“ぅ”をつけるなウザい」
「……つれないねぇ」
「ウザい」
「――……課長、聞きましたァ?!この一方的な暴言!ヘルメスは絶対Sですよ!<S>席を作るべきだ!」
 じたばたと抗議のジェスチャーをするカーティスだが、私は概ねヘルメス君に賛成なので何も言わずにただ紅茶を啜る。
 何の反応も無かったのでつまらなくなったのか、ヤツはそれ以上続けはせずクッキーをひょいとつまんだ。
「ヘルちゃん、今日の具は?」
「チョコチップとオレンジピール。ファルギブさんからの差し入れだよ」
 クッキーの皿は2つあり、それぞれ中身が違うようだ。私はオレンジピールと思われる方を取って口に含んだ。
「うん、美味い。流石だね、ヘルメス君」
「えへへ、いやぁ、それほどでもありませんよ」
 てへてへ、と頭をかきながらヘルメス君が言う。
 するとカーティスがうげ、と小さく漏らした。
 そして、
「……ファルギブからかよ……あー、なんか食べる気しねー」
 と言って、あろう事か取ったクッキーを皿に戻した。
「カーティス!そんな事、失礼だろう!?」
「だってさァ、課長!今日の客に一方的に怒られたの、アイツのせいなんスよ!?
 ファルギブのやろーがあっちの世界でソイツをぼっこぼこにした後で殺したとかなんとかで。
 しかも無駄におエライさんで死んだ後でもばっちし実体付き!ホラ、見てくださいよ、この痛々しいアザ!」
 そう言いながら腕を捲って突きつけてくる。……確かに、紫に変色していて相当痛そうだ。
「だから今日からオレはアンチファルギブ派なんスよ!アイツのせいで仕事がめんどくなったから!」
 ぷいっとそっぽを向きながら言い放つ。
 思わずふぅ、と息を吐くと、ヘルメス君が不思議そうにこちらを見てきた。
「何かあったんですか?」
 そういえば今日の事は話していなかった。……あまりに疲れてたせいかな……。
 ヘルメス君の問いに小さく頷いて、
「……今日の客はいささか気難しい方でね。ちょっとカーティスともめたらしい」
「気難しいってレベルじゃねーぞ、アレは!あのハゲチャビン木っ端微塵にしてやろうかと思ったぜ!」
 そっぽを向いていたカーティスが会話に入ってくるが――いや、ちょっと待て。
「――カーティス、お前、自分が何したか覚えてないなんて言わせないぞ」

 木っ端微塵。
 さっきヤツが口走った言葉だ。
 カーティスが客ともめているという報告を受けて行った先では――

「実際に木っ端微塵にしてただろうが!後片付けが大変だっただろう?!」
「えっ……と――んー、んー、……くだらねー事は忘れるようにしてるんで、覚えてねっス!」
 ビシィッと敬礼の形をとって言い放った。……全く、コイツは……。

「なるほど。ちょっとソリの合わない人が来て、すぐに口論になって、それどころか力まで行使した、と。――何言われたのか知らないけど、にこやかにかわすのがプロってモノじゃないのか、カーティス?」
 実に冷静に、更に正確に事情を察知したヘルメス君が淡々と言った。
 しかしカーティスも負け時と言い返す。
「いや、でも!アレは無理!だって、やってきた途端大声で怒鳴りつけてくんだよ?しかも明らかに自分らが悪いのに、責任転嫁してさァ!……ちょっと静かにお願いします、って丁寧に言ったらこっちにターゲットチェンジ!ってな感じに説教たれはじめて!
 なんてーか、叱られたら逆ギレ、これ基本!そう思ったね、ホント!」
 思っただけで終わってないからダメなんだよお前は……と、思いはしたものの口には出さずに置いておく。
「ねぇっ、課長だってそう思う事あるっスよねぇ?!」
 くるりとこちらへ向き直って訊かれたが、すぐには応えられずどうしたものかと思っていると、
「バカ何言ってるんだよ、カーティス。クオンさんははお前なんかと違って出来た人なんだよ。ンな事思ってんのはきっとお前だけ」
「んなっ!?そうなンすか課長ー!!!」
 とりあえず苦笑いで返しておく。



 * * *



 その後、愚痴り続けてたカーティスをなだめつつ(少しは叱りつつ)、なんとかアンチファルギブ派も取り下げさせた。――直接の面識は無いけれど、どうやら怒らせると怖い人らしい。
 まぁ、それをやったのはヘルメス君だけだけど。
 私はその様子をパピラスのお茶とオレンジピールのクッキーを頂きながら眺めていた。

 “叱られたら逆ギレ、これ基本”……ねぇ。
 したい、と思った事は多々あるけれど、まだ先を考えると難しい話だ。――退職金の事もあるし。
 とりあえず、逆ギレするならハラ括らないと、な。

 あぁ、まったく。若いってのは素晴らしい事だよ。

 うつむいた時に下がってきた白髪交じりの前髪を上げながら少し笑った。
<Q>の席の人登場。Quwhonとかそんなん、てきとー。
書き分けが出来てないせいで、最初の方とか女の人っぽいかもしんない。
けどナイスミドル設定です!おじさんです!白髪交じりです!中間管理職!
<C>の席の人も登場。Cartysとかそんなん、やっぱりてきとー。
ネコ毛っぽいかも。上司には微妙過ぎる敬語を使おうと努力してる人。失敗してるけど。
調子のイイバカっぽいのです。ファルちゃんとかぶるから同属嫌悪入ってそう。

それにしても一人称ばっかだからかぶる、かぶる。
一応この話では、オレ=カーティス、私=クオン、僕=ヘルメスです。

2008.11.16.