台 詞 で 創 作 1 0 0 の お 題
[ 39 ] 全身で感謝されてやるよ。

「仕方ねぇなぁ、ホラ、この俺様が全身で感謝されてやるよ!」
「誰がお前に感謝すると言ったか、このバカモノ!!!」
 目の前でゴシュジンがマスターに叩かれました。
 頭一つ分は違うのに、その身長差は関係ないくらいマスターが大きく見えます……。
 ほへ〜と口を開けながらそんな事を思ってると、そのマスターがちょいちょい、とこっちに向けて手を振ってきました。
「ラズル!そんなトコ突っ立ってないでこっちに来い!それで私の膝に座れ!!」
 ま、ますたぁ……命令口調だけど、何か言ってる事があんましかっこよくないですよぅ……。



 * * *



「それで?今の所どんな感じだ?」
 マスターがボクの作ったパイを頬張りながら言いました。ああぁ、もう、口の端っこからポロポロ零れてますよお!
「ん、相変わらず。あのヒト等、うっぜーの、なんのって。ついつい俺の左手が唸るところだった」
 同じようにボクの作ったパイを食べるゴシュジン。こっちはものすごく綺麗な食べ方で、ナイフとフォークが踊ってるようにさえ見えます。
「……何で左腕?お前右利きじゃないのか?」
「いや、そこは情けをかけてやってるんじゃない。右手でやったらそれこそ別時空まで吹っ飛ぶよ?」
「吹っ飛ばせばいいんじゃないか?」
 マスター……。あまりに直球過ぎますよ……。
 ボクと同じような事を思ったのか、ゴシュジンは折角綺麗な食べ方をしていたパイをあんぐり開けた口から落としてしまいました。
「なんちゅー過激な発言だ……いや、だが、しかし、そんなトコロも好きだ!!!」
「だろ? ふっ、ったく、照れるぜ……もっと、言え」

 ……。
 ――頭上で飛び交う会話にうすら寒い物を感じて思わずブルッと体が震えました……。

 *

 あ、そういえばまだ紹介してなかったです。
 さっきのバカっぽい発言をしたのはボクのゴシュジン様。
 ルーツァ=リランディア=マザリア=ルネス。
 長いので、るー様です。
 一応この屋敷の持ち主で、ちょっとした地位にいる方です。
 綺麗な金髪と赤い瞳。バカみたいな口調と表情さえやめればすごく美形です。付け上がるので面と向かっては言いませんけど。
 それでなんだかよくわからない受け答えをしてた直球な方はボクのマスターさん。
 ルカイア=ベラス=デリア。
 長いのでルカさんです。
 ちなみに口は悪いけど、女の人です。そりゃぁ、もう美人な方です!年の話をしたら怒られるけど、見た目は20歳くらい。茶色い長い髪と綺麗な紅い瞳を持ってます。難点を挙げればちょーっとだけ胸のぼりゅーむが無いトコロです。
 でもでも!そんなの一部ではすてーたすだって言われてるらしいので問題無いのです!ボクの大好きなマスターです!!

 それで。ボクは、ボクです。ルカさんからはラズルって呼んで貰ってます。
 小さい頃に拾われて、それからずっと育てて貰いました。今はヒトの年齢で言うと6歳くらいらしいです。でも、もっと、ずっと生きてます。
 だってボクは妖精ですから!めかにずむが違うらしいです。
 マスターが忙しいので、ここ数年はゴシュジンのトコロでお世話になってます。

 そして此処は、るー様のお屋敷です。おーっきいです。入った所から上に続く階段があって、2階の廊下がバルコニーみたいに見えます。ボクの担当は主に料理とかなのでキッチンによく居ます。すごい使いやすいです!
 ゴシュジンは2階の書斎に居ます。何か色々大変みたいです。
 マスターは地下室に居る事が多いです。こっちも何か色々大変みたいです。

 *

「……冗談はその辺で置いといて、正直な所ヤバイ状況だよ、ルカ」
 ゴシュジンが神妙な顔をして言いました。
 するとマスターも同じように、さっきとは打って変わってまともな受け答えをしました。
「あぁ、わかっている」
 そして顎に手を当てて、天井を見て、床を見て、左を見て、右を見て……すごく悩んだ上で、こう言いました。
「……私もお前と親しくしているからかな、ちょっと狙われているらしい。結構危ない所もあった」
「なっ!?」
 ガタン、と椅子が音を立てて倒れました。ゴシュジンが目にもとまらぬ速さで立ち上がって、マスターの所へ来たのでした。
「だ、大丈夫なのか?!怪我は!?俺のスイートハニーの美しい肌に傷は?!?!」
「ははっ、バカ言えルーツァ。この私が傷を負うなどありえないだろう?見ろよこの美しい肌を!!!」
 ……。
 う、っわーあ。気持ち悪い。
 でもこんなの日常茶飯事なのであえてそれは言いません。
 嫌そうな視線だけよこしてやるのです。
 その視線に気づいたのか、ゴシュジンが我に返ったようにハッとしました。そしてササッと倒れた椅子を立てて腰掛けなおしました。
「……でも本当に大丈夫なのか?アイツ等の盤上、今不利でさ……すごい必死なんだ。だから何でもやってくるかもしれないんだよ」
 心配そうに言うゴシュジンに、マスターは軽く笑って見せて、
「大丈夫。私は死んだりしないよ。お前とずっと一緒に居る、ってそう約束しただろ?」
 そう言って――それで。





 それで。





 1週間も経たない内に、マスターの死体が屋敷に届けられた。





 美しい肌には無数の傷が刻まれ、長かった髪は肩程までに切られていた。
 堅く閉じられた瞳。もう綺麗な紅を見せてはくれない。
 髪を切られたせいか、その外見は生前より幼く見えた。まるで、ボクが拾われた頃みたいで。

「ルカイア……ッッッッ!!!!!!!!!!」

 ゴシュジンの悲痛な叫びが響きました。
 ボクも同じくらい叫んだのかもしれません。でも、もうわかりませんでした。
 信じられませんでした。
 もうマスターがボクの事呼んでくれない事が。
 もうマスターの膝に乗せて貰え無いって事が。
 マスターが、マスターの命が消えてしまった……覆せない事実が。

 涙が溢れて、止まらなくて、悲しくて、悲しくて、寂しくて、淋しくて。
 声が枯れるまで泣き続けました。



 * * *



 あれから数年。僕は相変わらずルーツァ様の屋敷に居る。
 背も伸び声も変わった。精神面の成長が外見にも及んだのだと周りの人は言っていた。
 ルーツァ様は変わらない。
 あのまま、ずっと、何も変わらずに生きている。
 まぁ、それは別に問題ではない。だって彼はもう随分前から同じようにして生きてきたヒトだから。

 小さい頃はわからなかった事がわかるようになってきた。
 ルーツァ様が書斎でしている事や、度々訪れる客人の事、そして何よりマスターの死の真実。
「俺はさ、ラズル。メンバーなんだよ、あのふざけきった連中の」
 昔言われた言葉の意味はもうわかる。泣きそうな顔で言ったルーツァ様の気持ちも。

 “カミサマ”と呼ばれるヒト達。
 その世界を自分たちの好き勝手に操ってゲームみたいに弄んでいるヒト達。
 それは大昔にこの“世界”を、“空間”を作る時に関係したヒト達の血縁者で。
 ――ルーツァ様は、“作ったヒト”の息子だった。

 書斎でしているのはゲーム。世界を賭けた、勝手なゲーム。

 ルーツァ様も昔はヤツ等と同じように遊んでいたそうだけど、ルカイア様と出会ってそれをやめた。
 まるで生まれ変わったかのようだった、と今もよく話しているっけ。
 それからはヤツ等と対抗するような手筋ばかりを立て、少しでもゲーム盤の世界をその手から開放しようとしていた。
 倒そうとするなら守って、壊されたら直して、出来る事なら干渉しないように妨害までして。
 だから自然と他のプレイヤーからは恨まれた。
 嫌がらせや危険な事もたくさんされたようだけど、ルーツァ様には全然効かない。
 それで……周りの人間に危害が及んで――マスターが死んだ。

 もうどうしようも出来ない事だとわかっているけれど、それを理解した時はすごく悲しくて、憎かった。
 マスターを殺した他のプレイヤーも、……マスターを死なせたルーツァ様も。
 でも、本当にどうしようも無い事だから。僕は痛む心を奥底に押し込めていた。

 *

 ある日、ルーツァ様に呼ばれて書斎に行った。
 今まさに始まろうとしているゲーム盤。そして脇に置かれたメモ。
「ラズル、俺はもうこれでやめにしようと思う」
 一瞬意味がわからずに視線を彷徨わせる。……そしてメモの文字を見た。

 ―― 一人の少女の設定。
 茶色い髪に紅い瞳。容姿は勿論、性格も、マスターそのもので。
「ルーツァ様……一体何をされるんですか?!」
「この子が今回の俺の手札だ」
 パシッとゲーム盤を叩いた。
「この子に、全てを賭けた。ルール無視に近いギリギリの設定まで入れた。下手すればゲームの中だけの話じゃなくなるだろう。ゲームのキャラが外に出てくる……そしたら、やっと、こんなバカげた事、やめられる気がするんだ」
 そして少しバツが悪そうに笑って、
「ついでにコイツにも賭けた。ルカイアの分身と、俺の分身。……あわよくばゲームの中では幸せになって欲しいんだよ」
 もう1枚メモを取り出した。
 そこにはさっきと同じような設定。違うのは容姿と性格、何より性別。目の前のルーツァ様のような長い金髪に赤い瞳。……この人を反映しすぎなお調子物的な性格……まさしく“分身”だ。
「あ、後々!お前もいるぞ!宝石に宿る精霊だ!」
 まだ取り出されるメモに目を走らせる。紅い長髪と紅い瞳。……確かに僕だ。
「コイツ等で、ヤツ等の考えをふっとばしてやる。いつもみたいにすぐに破滅なんてさせやしない。絶対に足掻いて、勝利を勝ち取ってやる!」
 グッと握り締めた拳。
 瞳には強い意志と少しの淋しさ。
 僕はきっと横で見ているしか出来ないけれど――
「えぇ、きっと出来ますよ。 もう……“普通”に戻す時が、きっと、来たんです」
 マスターの分身の女の子、そのメモを見ながら、強く頷いた。



 × × ×



「で?言いたいことはそれだけか?」
「うっはー、フレアさんフレアさん、もう言えないと思いますよ!!」
 少し赤くなった右手を強く握り締め、茶色い髪の女の子が言った。
 その横では金髪の少年が面白そうに、でもちょっと焦るように、言った。
 その2人の前には倒れた男性が。
 長く伸ばした金髪が大理石の床に綺麗に広がっている。……その顔は腫れてしまってとても見れるものではないけれど。
 ヒクヒクと痙攣しながらやっとの事で手を上げて、
「ぎ、ぎぶあっぷ……ブベシッ!!!」
 また、殴られていた。

「と、とりあえず……お茶でもどうですか?」
 僕の一言でその通りになり、今は庭にあるガーデンテーブルに用意をしている所だ。
 揃いのチェアには踏ん反り返ったような少女と、興味津々にキョロキョロする少年。
 そして見るも無残なご主人様――ルーツァ様が座っていた。
「どうぞ……」
 僕はお茶とお茶請けを用意してそそくさと退散しようとした。嫌ぁな空気だったからだ。
 けれど女の子の方にガシッと腕を掴まれてしまった。
「ここに」
 ――いるように、という事だろうか。言葉少なだが反論すると怖い気がしたので、小さく頷くとルーツァ様の脇に立った。

「さて、と。じゃあ、何から話そうか……」
 だんだん腫れの引いてきたルーツァ様がそう言った。
 しかしその瞬間、
「何から“話しましょうか?”だろ」
 と女の子から痛い訂正が入った。
「……は、話しましょうか……」
 言い直すルーツァ様はもっと痛かったけど。
「大体の事はわかってる――って事も、そっちには“わかってる”んだろ?さっさと必要な事話せ」
 うぐっと詰まったルーツァ様が僕に助けを求めてきたけれど、フルフルと首を横に振った。だって怖すぎる!
 すると意外な所から助け舟が出た。
 金髪の少年だった。
「おおおおい、そんな威嚇してちゃぁしゃべってくれるもんも無くなるっての。
 んー、じゃあ、とりあえずさ――俺と、アンタの関係、訊いても?」
 くいっ、とルーツァ様を指した。
 色々な場所に視線を彷徨わせ、相当の時間悩んだ後――ルーツァ様は口を開いた。

 少年と自分の関係。――何故容姿がこんなにも似ているか、という事。
 自分の役割の事、ゲームの事、それをやめさせようと思った事。
 そして恋人だったルカイア様の事と、分身の事――。

 全てを話し終え、少しかっこつけながらお茶を口に含む。
「……そんなところだブヘァッッッ?!?!」
 が、殴られて全部出た。
「――――なーにが、“そんなところだ”だ、バカモノ!そんな簡単に説明されて、はいそうですか、で終われるとでも思ってんのか?そんなに甘くないぞ世の中ってのはなぁ、それ相応の罰を受けさせてやってもいいんだぞ?!」
「まっ、まぁまぁ、フレアさんフレアさん!!すぐに手を出さないのっ!次に何かあったら俺の左手を唸らせてあげっから!」
「……は?何で左?お前右利きだろーが……遠慮なく右でやれ」
 必死でフレアさん――茶色い髪の子だ――を押しとどめる少年。……でも何だかいつか聞いたような応酬だ。
「それにコイツ!」
 今度は僕にお呼びがかかったのか、真っ向から指を指された。
 けれど顔は一向にこちらを向かないところを見ると、どうも違うらしい。
「グリッセルだな?!ちょっと若いけどそっくりだ!……アンタもファルギブに、そっくりだからな――いやこの場合は逆か。
 とりあえずそんな事はどうでもいい。
 けどな、その根性が気に入らない。ゲームの中に自分達の分身を登場させてどうこうするより、まず自分がやれ!中のキャラに頼るな!!話聞いてりゃルカイアさん?とやらが殺された時にアンタのその身一つで向こうに殴り込めば済んだ話じゃねーか!!!」
「ま、ま、ま!フレアさん!!落ち着いて落ち着いて!!!てか俺さっきからこんなのばっか……。
 兎に角、このゲームに“登場”させて貰ったおかげでここにこうしているワケだし、そんくらいは感謝しよーね、ね!?」
 必死でフレアさんを抑える少年。……名前は“ファルギブ”、か。
 怒り狂うフレアさんを押し留めてばかりだし、苦労性な人なのかな……とか思っていたら、
「だが、感謝した後は、こっちが感謝して貰わなきゃなっ!このおっさんの思惑通り、ゲームをぶち壊してやったんだから――ホラホラ、この俺様が全身で感謝されてやるよ!!!」
 はっはっは!と無駄に胸を張って大声で言った。
 あぁ……やっぱり、ルーツァ様の性格を入れただけの事はある。
 苦労性から一変、唐突に俺様キャラになってしまった……。
「バカモノ!!ほとんど私がやった事じゃないか!感謝されるのは私だろ!!」
 ――て、なんかこういう会話も既視感が……。
 ぎゃあぎゃあ言い合いをしていたがしばらくして決着がついたのか、くるりとこちらへ向き直った。

「とりあえず!こうして全部バレてるんだ。いい加減観念しろ。そして世界を――元に、戻してくれ」
 神妙な顔つきになるフレアさん。こういうのはホント、マスターそのまんまだ。
 ルーツァ様もそう思ったのか、小さく呟いたのが聞こえた。――ルカイア、と。
 けれどすぐに頭を振って、
「それは俺だけでは無理だ」
 と言った。
「……“カミサマ”はシステム化されてる。例え今のプレイヤーを全部排除してもきっとすぐに次が来る。
 だから、根元から全部断ち切らなきゃいけないんだ。 今、ゲーム盤になっている“世界”全てを解放出来たら……その時やっと、ヤツ等を殺す事に意味が出てくるんだ。勿論、俺も含めて」
「何ソレ?どゆこと? じゃあ、アンタ等は“新しいゲーム盤”を作れないとでも言うのか?ンな事ないっしょ。だったら“カミサマ”になろうと思うようなヤツ等かたっぱしから殺してった方が早いんじゃね?」
 ファルギブさんの最もな質問に、ルーツァ様は首を横に振りました。
「いや、新しいのを作る時は長の印が必要でな……俺も昔は何個か押しちまったけど、今なら絶対押さない。だから、新しい盤は出来ないのさ」
「じゃあ今あるのは昔の盤だけだ、って事か……」
「あぁ、そういう事だ」
 こくり、と頷く。
 フレアさんはふー、とやや大げさに息を吐いてギロリとこちらを見た。
「長? 何でアンタが長なんだよ。だったらそれこそ、やめさせられたんじゃないのか、全てを!」
「い、いや。長って言っても形式的なもので……――えーと、つまり。この空間、ってのを作った時の一人者が俺の親父で、だから力が強いっていうか。……つまり、俺自体には力は無くて、ただ印を持ってる、ってだけなんだよ」
「ン、俺様わかっちゃった!つまり、地位的に上でも立場は弱いって事か!」
「う……そ、その通りなんだけど。自分と同じ顔に言われるの、なんかヤだな……」
 がっくりと肩を落としてルーツァ様が言った。確かに自分に言われてるようなモノだしなぁ。

「わかった。それじゃあ、やってやろうじゃないか。全ての世界を元に戻してやる。幸い――能力はふんだんに付けてくれたからな、出来ない事は無いだろう。……時間がかかっても問題無いしな」
 フレアさんが悲しそうな表情をしたのでふと思い出した。
 ルールギリギリの設定の中に“不老不死”というのもあったっけな……。
 悲しい気分に入りそうになっていると、カタンという音を立てて椅子が押された。フレアさんとファルギブさんが立ち上がったのだ。
「さて、と。私達は一旦あの世界に戻る。また来るから、それまでに各世界のゲームの詳細をまとめておくように。いくつあるか知らないが、一つでも漏れてたらその場でメッタ刺しにするからな」
「あー、アレなー!傷治る前に次刺されるから結構痛いんだよなー」
 ファルギブさん、経験者ですか……。

 全員立ち上がり、来たときと同じ場所へと向かう。庭に面した広間だ。
 二、三、2人で言葉を交わした後、ファルギブさんだけ先に消えた。
 空間にはルーツァ様とフレアさん、そして僕の3人が残された。

「アンタのさっきの話を聞いた時――最悪だと思った」
 フレアさんが唐突に話し始めた。
「なんとなく王国側の動きは作られてるモノだとわかってたけど、まさかこっちまでそうだとは思ってなかったからな。私達はともかく、グリッセル達まで支配されてるなんて……とんだ茶番だ、と思った。
 運命に抗ってるつもりが、“運命に抗ってる運命”を演じさせられてるだけ、なんてな」
 ハッと自嘲気味に笑う。僕達は何も言う事は出来なかった。
 確かに僕の知る限りでもルーツァ様の考えた筋書き通りになってる箇所が幾つかあったからだ。
 でもそれはあくまで“幾つか”で!
「けど、アンタと、私のモデルになったルカイアの事聞いて、なんか安心した。
 だって私とファルギブは、そうならなかったから。お互いにそれぞれの一番を見つけて、幸せになれた。 だからそれだけはアンタ達と違うってわかるから本当に安心した。……分身なんかじゃない、ちゃんとした“ヒト”だって思えたから」
 フレアさんが今度は嬉しそうに笑った。
 僕の大好きだった、マスターと同じ顔で、違う笑顔で。
 それを見たルーツァ様が呟くように返す。
「……あぁ、本当なら“ルカ”と“リラン”……フレアとファルギブはくっつくハズだった。お互いに一番理解しあって、良い恋人同士になるハズだったんだ。 でもお前達は別々に他の人間を見つけた。
 それだけじゃない。色んな所で俺の考えとは違う行動をとった!本当は、本当なら!――フレアに村人を皆殺しなんて、させるつもりなかったんだ!ルーラ=バギアンなんてお助けキャラも作る予定は無かったし、何より、アーシアル=ウィルダデントなんて全くの想定外だ!あの辺りで俺の考えを反映させられたのは、森の脇に立ってた館のデザインくらいだ……、今、居るこの館と一緒にする、それだけ。
 王国があんなに暴走する筋書きだって立ってなかったんだ……本当にすまない。
 でも、こう言ったら怒るかもしれないけど、こういう予想外の行動をしてくれるおかげで確信が強まっていったのは確かなんだ。俺は全部フレア、君に賭けていたから。筋書きと違う事が起きる度に嬉しかった。今度こそ終わらせられるんだ、と思えたから!」
 最後の方は大声に近かった。
 そしてルーツァ様は、泣いてた。
「ここまで来てくれてありがとう。これでやっと――解放してあげられる」
 大の男がドバドバと涙を流すのを見てしまったのが困ったのかフレアさんは頬を少しかきながら照れたように笑った。
「ったく、バカモノ、だな。 まだ“ここに来た”だけだ。これから大仕事が残ってるっていうのに今からそんなに消費しててどうする。――ま、仕方ないからな。ホラ、全部、きっちり終わったら全身で感謝されてやるよ。
 だから、ちゃんと調べとけよ!!」
 そして消えていく時に、
「――――さっきはあんな事言ったけど、“登場”させてくれてありがとな。そうしなきゃファルギブにも皆にも……ジャックにだって会えなかった。当然アンタ達にも、な。 感謝してるよ、ルーツァ。それにルカイアにも」
 そう言いながら彼女は元居た世界へ戻っていった。

「……はは、とんでもない客だったな、ラズル」
「えぇ……でも。 でも、良かったです。何年も頑張った甲斐がありましたねルー様!きっと、ルカイア様も、喜んでくださるはずです」
 唇をぎゅっと噛み締め涙を堪えた。
 今、ここでマスターの名前を出すのがこんなに辛い。ルーツァ様は、きっともっと辛いんだろう……。
 思った通り、ルーツァ様は涙を堪えもせずに流しながらこう返してきた。
「そう、だな。……うん、ルカイアがここにいないのは悲しい事だけど、どこかできっと見守ってくれて――」

「あ、それなんだけど!」

「「へ?!」」
 突然フレアさんが戻ってきた。
 2人して泣いてる所に帰ってこられて思わずあたふたしてしまう。
 けれどそんなのお構いなしに彼女は続けた。

「ルカイアの体はここに送りつけられたんだろ?そん時魂は?入ってなかったのか? だったらきっと魂だけその“ヤツ等”が捕えてる可能性があるからさ、まー、出来そうだったら取り返してやるよ。 だからっ、体の準備しとけよ!
 じゃ、それだけだから。後よろしく!」

 半ば捨て台詞のような、相手の返事を待たずにしゃべるだけしゃべって、すぐに掻き消えてしまった。
 僕達はその消えた空間を唖然と見てて。
 でもだんだんそれは現実味を帯びてきて――。
「ルーツァ様!」
「ラズル!」
 2人顔を見合わせて、笑いあった。



 ゲームは終わり、世界も戻り、悪は一掃。
 全部の大々円に僕らの幸せも加わった。



 ねぇ、ルカイア様。“カミサマ”の手から解放された世界はどうなっていくんでしょうね。
 僕は思うんですよ。
 決して良い結果が出なくても、例え最悪な状況になっても。
 誰かに強制されたり操られたりするんじゃなくて、自分の意思で決めたら全部、それはいつか素敵な事になるって!
 逆に良い結果が出たり、とても最高な状況になった時。
 それが全て自分の意思で決めた事だったら、今までの何倍も何十倍も、何百倍だって素敵な事なんだ、って!

 自分の考えで行動するんです。
 誰にも決められずに。

 悲しい事があったら泣いて、淋しくなったら誰かに、何かに寄り添い、嬉しかったら笑う。
 何かいい事があったら皆とそれを分かち合って、色んなモノに感謝するんです。

 でね、ルカイア様。それってきっと、その人が自分で考えた結果の感謝なんです!
 それには強制も何もなくて、すごく純粋なものになると思うんです。

 だから例えばそれが僕に向けての物だったとしたら、僕はそれを全身で受け止めて、全身いっぱいで感謝されてやるんです!
 それってすごく素敵な事だと思いませんか。 ね!マスター!
自己満足まっしぐらです。意味わかんなくても自分にゃわかればおーるおっけー!
一応創作世界全体の話っぽい。よーするにバカが怒られたってだけですが。
……それにしても自分はよっぽどキャラを殺したくないらしいな……。

2008.9.23.