台 詞 で 創 作 1 0 0 の お 題
[ 26 ]  取り戻せないぐらい奪って。

 例えばの話。
 俺がここで死んだら、アイツはどう思うのだろう。
 仕事が省けたと喜ぶのだろうか、それとも泣いて悲しんでくれるのだろうか。
 前者ならとりあえず呪ってやる。霊体になっても見える人には見えるらしいからその人に頼んで。
 ……まぁ、冗談だが。
 後者なら素直に嬉しいかもしれない。
 だって、少しは俺の事好いてくれていたって事だろう?

 一番怖いのは何も思われない事だ。
 ただの些細な事として処理される。これだけは勘弁ならない。
 死ぬ、という一世一代の大仕事なのだ。少しくらい心を良いも悪いも揺らして貰わないと浮かばれない。

 いやいや、そういう事を言いたいわけでもないんだが。
 兎に角……少しはアイツにとって、何か意味のある存在になりたいんだ俺は。
 出来るのならばその心、取り戻せないくらい奪って。そして俺だけで満たしたい。
 他のヤツの事なんて考えないで。昔の事なんかも思い出さないで。

 ナユタ。
 お前が今は死神で、俺が勇者でも。
 お前が昔勇者で、死神に殺されていても。
 魔王にされた後、勇者に滅ぼされていたとしても。
 そんなの全然関係無いんだ。

 お前がそこで笑ってる。それだけでこんなに嬉しい。

 だから思い出すな、頼むから。
 全てを知った俺から昔の事を聞きだそうとするな。



 例えばの話。
 なんてのは夢物語に近い。

 でも夢物語ならばせめてハッピーエンドを見せてくれ。
 死なずに、ナユタをヤツ等から開放したいんだ。
夢前勇者アレスの独白。

2008.7.7.