なんかもう何が書きたかったのかよくわからなくなっちゃいました。
一応アルスラさんとリュークさんの話。リュークさんはどの小説にでも出てない人ですけど。
とりあえず自己満足な世界なんで……ああああ、ホントに意味わかんなくてすいません!(何アンタ
2006.9.7.
台 詞 で 創 作 1 0 0 の お 題
[ 21 ] 愛を謳え。
彼はそういえば俗に言う“吟遊詩人”とやらだったんだ、と思い返す。
楽器と共に物語を紡ぎ、謳う。そしてその対価に少々の金や物を得る。それが吟遊詩人だ。
まだ書物が余り普及していなかった古より、彼らは数々の物語を過去から未来へと繋いでいっている。
* * *
そして少し前に旅から戻った彼を見てふと思い出した。
今まで深く考えないようにしてたから忘れていたけれど、そういえば彼は。
「詩謳いなのよねぇ」
「はい?」
キョトンとした顔でこちらを見てきた彼に、私は口の端を上げて笑みだけで返す。
「?何なんですか、もう」
あしらわれたとでも思ったのか、彼は不貞腐れ気味に言った。
その手にはハープ。随分と年季の入ったものらしくあちこち汚れている感じもする。
彼はそのハープを丁度ケースから出したのだった。
「俺は今から練習しますから。アルスラさん、うるさいようでしたらドア閉めてくださいね」
窓際に1つ椅子を持っていき、そこに腰掛ける。
開けられた窓の向こうは水色のグラデーションが綺麗な空と、風で波を作る草原。
気持ちのいい風が吹き込んで、私と彼の髪を揺らした。
「えぇ……わかったわ」
そう言いつつも私はその場から動かなかった。
いつもなら彼が練習する時はすぐに部屋を出て、鍵をしめて、何も聞こえないようにして……世界を閉じるのに。
「――行かないんですか?」
いつもの私の行動を知っている彼は訝しげに私を見た。
確かにいつもなら。
彼の練習する“物語”を聴きたくなくて、その存在を忘れるようにして努めていたけれど。
「ねぇ、たまには違うもの練習したらどうなの?」
「違うもの……ですか?例えば何です?」
フム、と考え込む彼に私は言う。
「愛の詩、とか」
途端、ポカンとした顔をした彼が居た。
「……はい?」
何を言ってるんだ、とでもいうような表情。……失礼しちゃうわよねぇ、全く。
「だから、愛の詩よ。愛!純愛でも偏愛でも悲恋でも友情でも親子愛でも、なんでもあるでしょう?吟遊詩人さん。さぁ、愛を謳え。ってね?」
そう言った後、私は腕を組んでうんうん、と頷いた。
基本的に私は恋愛物語が好きなのだ。なのに何故これに気付かなかったのか!
いつも、いつでも彼の謳う“魔術師”の詩に耳を塞いでいるよりも、ずっと、ずっと。
「良いわよ、愛の詩の方が」
どう?、と未だにポカンとした顔の彼に訊いた。
「へ?あ……は、はい……えっと、あ、愛の……詩」
ですか……、と最後の方は消え入りそうな声で。
その顔は今や真っ赤に染まり、もごもごと動かす口からは言葉にならない声が漏れていた。
「何知らないの?例えばホラ、シュルツアー物語とか、ヘキメキの芽の噺とか。あっ、私はアレが好きよ、瑠璃色の宝玉!あのお姫様がね――何だか知り合いに似てて、可愛いのよね」
ふと彼女を思い出して。
「……ホント、可愛いのよ」
“彼”も一緒に思い出してしまって胸が痛んだ。
「瑠璃色の宝玉」はある宮廷魔道士とお姫様の身分違いの恋を書いた話だ。立場の違いから別れようとする魔道士と、それでも一緒に居たいお姫様と。
悲しくて切なくて、愛しくて……胸が締め付けられる、そんな物語。
そんな物語に酷似した、彼女と彼を、思い出す物語。
「瑠璃色の宝玉なら謳えますよ、俺」
ポロン、とハープを鳴らして彼が言った。
私はまだ若干紅い顔をした彼を見て、へぇ、と呟いた。
「それじゃあ、それ謳ってくださいな。吟遊詩人さん?」
冗談混じりにそう言って、彼の謳い出しを待った――けれど。
「……謳えるけど、俺、その詩好きじゃないんで謳ってあげません」
彼はきっぱりとそう言った。
そしてにっこりと笑って、
「俺、あの宮廷魔道士、だいっきらいなんですよね。ホラ、あの優柔不断な所とか。お姫様の事何にも考えてない所とか……バカですよ、バカ」
何だかとっても良い表情(かお)で言ってのけた。
私はそれがとても意外で少し吃驚していたけれど、少しずつムカムカしてきていた。
だって。
「で、でもあの魔道士だって色々考えていたのよ?自分は本当は人間じゃなくて、一緒に生きれないってわかってたし……好きだったからこそ!」
“彼”を悪く言われたような気がして。
「……そういう所が嫌いなんですよ。人間じゃない?身分?立場?そんな物関係無いとは思いませんか。本当にバカですよ。そんな事、
最初からわかりきってて、それでも、好きになったのに」
ズ キ ン
彼の言葉に酷く胸が痛んだ。
「兎に角、俺はあの詩は謳いませんから。他の詩なら謳ってあげなくはないですけど」
すまして言う彼に私はただ、ただ……感情のままに口を開いていた。
「わかりきってて……って、何で、そう、言い切れるの?」
「――はい?」
「本当にわかってるとでも思ってるの?!お姫様が思ってるよりもずっと……ずっと、魔道士は!彼は……っ、苦しくて、辛くて、それで悩みぬいた末にそう、言ったのに! それをわかっても――絶対にわかってもいないくせに!言わないでよ、そんな事!当たり前っ……みたいに言わないでよ!!!!」
そう、ぶちまけて。
バタンッ
私は部屋を飛び出した。
* * *
やめてよ、その詩は謳わないで。
私達そんな事してないわ。何もしてないの、本当よ。
本当なんだったら!だからお願い、悪者になんかしないで。
わからないの、何でこうなったのか誰にもわからないのよ。
やめてよ……やめてよ!!!
耳を塞いで部屋の隅に座り込んだ。
鳴らしてもいないはずのハープの音が聞こえて、あの、呪詛めいた“魔術師”の詩が聞こえてくる。
ううん、聞こえてくる――気がするだけ。本当は聞こえていないはず、なのに!
「やめてよっ、もうやめて!助けて……助けてよ、リランッ」
居もしない“彼”の名前を呼ぶ。
魔道士と同じ立場で、同じ事をした“彼”の名前を。
彼の事がずっと好きだった。
そして彼女の事もずっと好きだった。
彼だけを好きなのか、彼女を好きな彼を好きなのかもわからないで……でも好きだった。
2人の事が好きだったから、祝福したのに。
こんな時に名前が出てくる自分が情けなかった……。
* * *
「アルスラさん」
しばらく経って、ノックの音と共に扉の向こうから彼の声が聞こえた。
私は聞こえないフリをして無視をする。
「アルスラさん……聞いて、いますよね?」
無視を、する。
「ねぇ、アルスラさん。貴女は他の人にはわからないって、そう言ったけど……本当は、結構わかってるものなんですよ?人の気持ちなんて案外見えやすいものなんですよ」
そして、
「だから俺は、宮廷魔道士が嫌いなんです」
彼はそう言った。
「貴女がよくあの詩の本を読んでいること知ってました。そしてアスレアさんとリランさんにそれを重ねていることも。本当はアルスラさんが、リランさんの事を好きだって事も……いや、好き“だった”事も。
だから人一倍そういうケースを気にしている事も」
沈黙が訪れて、彼が私の反応を待っているのだろうと思った。
それでも無視した私に彼がどう思ったのかはわからないけれど、突然
ポ ロ ン
ハープの音が聞こえた。
「愛の詩を……ご所望でしたよね。謳ってあげますから聴いてくださいよ」
ポ ロ ン
そして彼は創(はじ)める。
「世界は平穏、日々が流れ行く合間の噺」
私は立ち上がって扉の方へと歩いていく。
足音が聞こえないようにそっと、そっと歩いて。
でも次の彼の言葉で、
「自分の立場を人一倍気にして、何かをする事に酷く臆病になっている“魔術師”と」
ダ ン ッ
思わず足を強く下ろした。
……からかって、いるの?!
機嫌を悪くした私にわざわざ、瑠璃色の宝玉を謳ってくれるとでも?!
私は扉へ素早く歩いていって向こうの彼に一言言ってやろうと思った。
ガチャリ、とドアノブをひねった時。
「彼女に恋した、愚かな詩謳いの――物語」
彼の次の言葉が聞こえてきた。
「……リューク……?」
扉の向こうに居る彼の名前を呟く。
するとコツンという音がして、開けようとしていた扉に力がかかった。
彼が向こうから寄りかかったのかもしれない。
そして。
「俺と貴女の、物語です」
貴 女 の 事 が 好 き な ん で す よ 。