台 詞 で 創 作 1 0 0 の お 題
[ 19 ]  帰れ。

 久しぶりに見る顔は何だか妙に血色がよくて艶々な肌に、にへらとだらしなく下がった眉毛。
 それに同じくにへらとヤな感じに笑った目と口。
 明らかに前よりも若返った気がするのは間違いじゃないハズだ。
 私はその顔を見ながら自分の手を置いている場所を握って気合を入れて。

 よーっし。

帰 れ ! ! ! !

 大声で叫んだのだった。



「な……ナナ、いきなり叫んでどうしたのさ?」
 人間のソレよりは遥かに優れているであろう耳を押さえてココロが言った。
 チラリと後ろを振り返るとその場に居た人は皆そうしているようだった。
 そして前に向き直ると――同じように耳を押さえながら今にも泣きそうな顔の。
「ナナちゃん、パパに向かってそんな帰れだなんて!」
「何がパパじゃ!ふざけんなこンのクソ親父がぁァァッ!!!!!」
 ――父さん。

 まぁ、今この状況を説明すると。
 何たら会議とかで放課後の授業が無くなった私達。皆ヒマでしょーって事で遊びに誘ったのだ。
 ンでどこで遊ぶって話になって、第1希望のフレアの家はグリッセルさんの知り合いが居るからとかでダメで、第2希望のみっちゃん家も碧先生のお友達が来てるからダメで、第3希望のくーちゃんトコもなんだか複雑な理由でダメで……。
 “それじゃぁ、ナナの家は?”そう、誰かが言ったので。
「ンもー、仕方ないなぁ。それじゃぁ皆さんをナナさん家にご招待してあげようじゃぁないか!」
 そういう事になったのだった。
 突然家に友達が来るって事で、部屋は綺麗かな、とかおやつあったけな、とか色々考える事はあったけど、普段から掃除はこまめにやってるしおやつは途中で買っていくことに決まったので心配無用だった。

 それなのに。

「なっんでアンタがここに居るのか教えて貰いましょうかねぇ?!えぇ?!」
 予想外過ぎる。
 なんでよりによって今日、しかも既に家の中に、父さんが居るのか。
「だ、だって……今日パパ突然おやすみが取れて嬉しかったからつい……」
 エェ年こいたヒゲ親父が人差し指を口元に当てながらこんなしゃべり方をしないで欲しい。
 その上、
「だあああああ!!!!だからパパとか言うなああぁあ!!!」
 私は普段よりもちょっぴし言葉遣いが荒くなってるなぁ、なんて頭の隅で考えながら叫んだ。
「大体っ、休みが取れたからってココに来る事ないでしょうが!どっか!別の!もっと違うトコに行け!!」
 ぜはーっ、ぜはーっ……全くっ、疲れるっ。
 けど、まだっ。
「その上折角の休みだってのにお母さんほっぽいて何してんだこのバカ親父!!!」
 怒りの形相(になってると思う)でそう言って、少しはダメージを与えられたか?そんな事を思って目の前の顔を見ると、それは全然ダメージを受けていないどころか、とても不思議な事に遭遇したような表情だった。
 そして事も無げにさらりと。

「母さんも来てるよ?」

 そう、言ってのけた。

「はい……?」
 一瞬理解出来ない。
 でもそんなの必要無いと言わんばかりにパタパタとスリッパの音がして、廊下の向こうにお母さんが見えた。
「おっ、お母さん?!」
 久しぶりに見る顔は以前よりずっと明るく、健康的そのものだった。最後に見たときの顔色の悪さを思い出して、良くなったんだと安心した。
「お帰りなさいナナ」
 にっこり笑ってそう言ってくれた。
「ただいま、お母さん」
 思わずにっこり笑い返した。――そのやりとりを見て横で“おかえりナナちゃん”だのなんだのボヤいているヤツが居た様な気がしたが、きっと気のせいなのでほっておく事にする。
 お母さんは家から持ってきたのか、可愛いヒヨコのアップリケのついたピンクのエプロンをつけていた。頭にはご丁寧に三角巾までしている。……どこぞの家庭科実習ですか、とついツッコんでしまいそうだ。
 ……ってソコがツッコミどころじゃなくて!
「お、お母さん……?一体何してたの?」
 恐る恐る聞いてみる。
 するとあぁ、と自分のエプロンを見ながら答えた。
「冷蔵庫の中のお掃除してたのよ」
 ……。
 ……そうか、と思う。
 あの三角巾は調理実習ではなく、大掃除だったのだ。よくよく見るとエプロンのぽっけには同じくピンクのゴム手袋が無造作に突っ込まれていた。
 私がそれを見ながら、なるほどなるほど、とそう思っていると、お母さんがふと思い出したように言った。
「そういえばナナ。冷蔵庫の中に何だか怪しげなカビが生えてる感じのビンがあったから中身捨ててよく洗っておいたからね。元が何だったかわからないけれど、そういうのはキチンと管理しなくてはダメよ?」
 メッ、といつの間にか父さんの隣に並んでいたお母さんは私のおでこを軽くつつく。
「ん、うん……ごめんなさ――」

 って、ちょっと待って。

 怪しげなカビが生えてる感じの……ビン……?

 さーっと血の気が引いていくのがわかる気がした。
 これは怖いものを見たときとかにもあり得ることだけど今回は違う。頭に上った血が降りてきて、なおかつ必要以上の分までもが無くなっていく感じだ。
 冷たく――なる。
「す、捨てた……?」
 自分でもかなり低い声だと思った。
 お母さんもそれに気づいたらしく、どこか不安げに軽く頷き、
「えぇ、捨てたけど」
 決定打を打った。
 カキーン!! みたいな。……てギャグじゃなくて!

おっ、お母さんもバカ親父もっ……帰れーー!!!!!二度と来るなぁァッッツ!!!

 半ば泣きそうになりながらそう叫んで、私は彼らを追い出した。



 * * *



「ちょ、ナナ……?折角お父さんとお母さん来てくれてたのに追い返しちゃっていいの?」
 はぁっはぁっ、と肩で息をする私に向かってココロがそんな事を言ってきた。
「そうだぞナナ。それに随分会っていなかったんだろう?」
 同じようにフレアも言ってくる。
 でも私はフルフルと首を振って、
「いいの!!!あんな人達知らないんだからっ。ヒトの宝物勝手に捨ておってからに……!!」
 メラメラと背後に炎をしょっちゃったりする。
「宝物……?」
「うんっ、宝物!!酷いんだよぉ、ココロぉ〜」
 ココロに抱きつきながら――ちなみに今はちっさいバージョンだ(ココロは人間サイズにもなれるのだ!)――私は“彼ら”に思いを馳せる。

「生まれた時から、ううん、生まれる前から私が世話してて、ホントにちっちゃい時から……可愛くて可愛くて、可愛くて仕方がなかったあの子達。あと少しで……大人になれたのに――お母さん、捨てちゃうなんて酷すぎるよ!生きたまま下水に流されて!どんな気分でいるか!……あぁっ、考えるだけで胃が痛くなってくる……っ」
 キリキリと本当に痛くなってきたお腹を押さえながら床にひざをつく。
「ナナ?!大丈夫なの?!ていうか“その子”達は……ハムスターかなんか?お、おばさん見かけによらず怖いことする人だったの?!」
 パタパタと飛んで気遣ってくれるココロ。
 でもフレアはどこか遠くを見るようにそっぽを向いていた。
 そして――
「ナナ。お前ソレ、まさかとは思うが……秋の味覚か?」

 ギク

「そんでもって、お前のその“胃の痛み”……腹減ってるだけだろ?」
 ギクギク
「……」
 そろりと顔を上げると、眉間にしわ寄せ怒りんぼフレアちゃんv

「でっ、でもー!あのまいたけ、ホントにあと少しで出てくるハズだったんだよ?!そしたら軽くあぶってポン酢で食べたり、お鍋でぐつぐつ煮てきのこ鍋堪能したり、きざんで竹の子とかこんにゃくとか鶏肉とかと炊き込みご飯だって予定してたのにいぃぃぃ!!!!」

 ギリギリギリ、と歯軋り状態でそう言ってみると、フレアの眉間のしわは消えてその代わりに深いため息と。

「――きのこの国へ帰れ、お前は」

 呆れたような声が、降ってきた。
きのこネタですが、こんなん書いてる自分はきのこが天敵だと思ってます。
何あの微妙な触感!微妙な味!かみ締めた瞬間に広がる……ぐっ、ぐあああ!!!
いえいえ、別にきのこ好きの方に喧嘩売ってるワケじゃないんですが……どうにもダメで;;

ちなみにコレ没ばーじょんがあります。設定とか一緒だし折角なんでアップしてみます。
読みたいって方は [ コ チ ラ ] をクリックしてどうぞ。途中で終わってるのであしからず……。

2006.9.4.