不完全燃焼極まりないですが、まぁ気にせず。(気にしろ
以前から居た怪盗Rさんをなんとか小説にしたくて頑張ってみたりなんかしました。
2005.8.28.
台 詞 で 創 作 1 0 0 の お 題
[ 12 ] 素敵に無敵、何の問題が?
少し唐突な入りだが――ボクは探偵をやっている。
勿論、浮気調査だのペット探しだの、ショボイ物を扱う探偵ではなくて、難事件を!警備隊から!依・頼・さ・れ・る!!とぉっても優秀な探偵サンなのである。
そしてつい最近。
そんなボクの元へとまた依頼が持ち込まれていた。
「レイン君、こんにちは。ちょっといいかい?」
「おや、マニエール警備隊長。どうしたんですか?」
その依頼を持ち込んできたのは顔なじみの警備隊長、マニエールさんだった。彼は白髪交じりのブラウンの髪をポマードでがっちがちに固めた、50間近のおじさんだ。とは言え、ポマードには聊かの不満があるものの、顔の作りはとても良いし、性格も良い。それにボクにはお父さんが居なかったので父親みたいに慕っている人だ。
ボクはとりあえず私室にマニエール警備隊長を通して、家政婦のミーランさんにお茶を出してくれるよう頼んだ。彼女はすぐにレモンティーを持ってきてくれて、ボク等はソレが置かれたテーブルセットに落ち着いた。
「さて……と。何かご依頼なんでしょうか?」
ボクたそう言うと、マニエール警備隊長は鞄の中から一枚の手紙を取り出した。
「実はまたこれが届いてね」
彼が取り出した手紙を受け取り、中を確認する。
金縁で囲まれた紙に黒文字で2行。
『陽の光が陰る時、紅色に光る天の涙を頂きに参ります。
怪盗R * ,,,』
なるほど――また、“彼”ですか。
……っと、まだ“彼”を知らない人がいるようなので少し説明をしておこうかな。
“彼”とは「怪盗R」と名乗っていて、少し前からこうして警備隊と標的のある家宛に“予告状を出して盗みに入る”……という一昔どころか大昔に絶滅したような“怪盗”に憧れる泥棒サンです。
今まで盗まれた物は確か……えと、4点くらい?だったかな。兎に角、その全てが予告状付きだったにも関わらずまんまと盗まれてしまっているんですよね。
「また盗るつもりなんですね、この怪盗サンは」
ボクはその予告状を見ながらそう言った。
マニエール警備隊長は居心地が悪そうに頬をかいて、苦笑いを浮かべる。
「あぁ、それでだね」
「わかってます。今回のご依頼は……この怪盗サンを捕まえてくれ、ですね?」
彼は小さく笑って頷いた。
* * *
陽の光が陰る時――今の季節だと陽が完全に沈むのは午後7時前後だから、それくらいに彼は来るのだろう。そう、ボク達は判断した。
今回の彼の狙いは「紅色に光る天の涙」と称される、雫の形にカットされた最上級のルビー。持ち主はこの街に住む資産家のご夫人で、そのルビーは代々伝わる家宝なのだという。
「という事で絶対に盗まれたくないそうだ」
……って、そうじゃなくても普通は誰だって盗まれたくないでしょうが。
警備隊長にしてはどこか抜けすぎてるマニエールさんはほがらかにそう言った。勿論この場にご婦人は居ない。先ほど少し会ったけれど、もしこの場に居たら……うぅ、考えるだけで怖い。
「まぁ、とりあえずダミーとか作って、それを置いとくらしいですが。それは誰の提案です?」
「あのご婦人の提案だよ、レイン君。いやはや、あのご婦人はとてつもなく恐ろしいね!特に見た目が!」
はははっ、と爽やかそうにマニエール警備隊長。
こんなんでいいんですか、警備隊は、と少し思う。
「なるほど。まぁ、今までの話を聞いているとダミーを作っても意味がなかったらしいですけど。備えあれば憂いなし、と言いますし今回もそれで行くとしますか」
ボクは辺りを見渡すと隊員の数を確認する。
「窓際に10人、入り口に4人……部屋の中にはボク達を含めて16人ですか。むさくるしいですね」
「まぁ、そう言うなレイン君。今度の事件の時は女性隊員を増やして貰える様にするから」
いや、そういう問題ではないんですけども。
やっぱりこんなんでいいんですか、警備隊は、とかなり思う。
そしてあっと言う間に午後7時前。
「さて、本当に来るんでしょうかね」
そう呟いた矢先、突然光が消えました。
――十中八九、“ヤツ”です。
「全員配置に着け!入り口班、窓際班!誰も入って来ないように、警戒に当たれ!」
なんだかとっても警備隊長サンらしい事を叫ぶマニエールさん。まぁ、ホントに警備隊長なんですが。
「……彼は来る、と思うかい?レイン君」
「えぇ、というかもう来たんだと思いますよ。確実に」
ボクは内ポケットを探って黒光りする得物を取り出す。出てくる時に弾はこめてきたから、今すぐにでも撃てるように安全装置を外しておく。
静まり返る空間。
ボクを含めた16人のむさくるしい息の音だけが響いていた。
* * *
「おや、今日は随分と人数が多いんですね」
突然、降ってきた声――と同時に、何故か。
何故か……懐かしい気持ちが沸き起こる。
「なるほど。人数も多い上に探偵さんまで雇ってらっしゃるそうで」
どこから響いているのかわからない声。
ボク等は慌てて辺りを見渡す。
「怪盗Rか?! どこに居るんだ!?姿を現せ!!」
隣でマニエール警備隊長が叫んだ。するとその声に反応するように漏れる笑い声。
窓際班の一人が……堪えきれない笑いを漏らしたようだった。
つまり――
「もうと〜っくの前に入っていた、ようですね」
窓際班の一人、に扮した怪盗Rは「当たりです」と答えた。
「なっ、なんと言うことだ!突然来て、とても熱心に警備隊に入れてくれと頼むから入れてやった新人Aが怪盗Rだったとは!くっ……マニエール、一生の不覚!」
いやいや、そんなのフツー入れないでしょう?
全く……こんな警備隊だから穴はあるとは思っていたけれど、まさかここまでとは。
漏れた溜息を隠すこともせずにボクは肩を落とした。
「まぁ、ともかく怪盗Rサン。このボクが居るんですから、そう楽に盗めると思わないでくださいネ」
ビシッと視線で威嚇する。けれど怪盗Rと名乗る泥棒はさも可笑しそうにお腹を抱えた。
「ぷっ、あ、はっはっはっはっは!!!」
そして呆気に取られて何も言えないボク達の方へやってくると、さっ、とポケットから何かを取り出した。
いや、訂正しよう。何かではない。
「もう既に頂いちゃってるんですけど」
……「紅色に光る天の涙」、そのものだった。
「いつの間に!!おい、誰か!本物を保管していた隊員は誰だ?!」
マニエール警備隊長の焦った声にオロオロする隊員達。皆きっとわかっているのだけれど、言い出せないのだろう。
保管していた隊員は怪盗Rに他ならない事を。
ボクは構えていた拳銃を力無く下ろして、マニエール警備隊長の方を向いた。
「マニエールさん、アナタ……」
色々とネジ抜けすぎです。
そう言おうかと思ったけど、“誰が”持っていたのか思い出したらしく、うな垂れるマニエールさんを見てるとそうも言えなくなってしまった。
しかし彼はそんな状態を何とか脱し、ビシィッと新人Aこと、怪盗Rを指差した。
「きっ、君は何故……! 何故それを盗むんだ?!」
するとその質問に怪盗Rは酷くウケたらしい。
一瞬キョトンとした顔をしたかと思うと、次にはお腹を抱えて笑い出した。
「ぷぷぷぷっ!!あーっはっはっはっは!!くっ……こっ、この警備隊の皆さんはいつにも増して面白い方々ばかりだ!」
……笑いのツボにでもはまったのだろうか?
ダンダン、と床を叩いてまで笑っている。……って、オォ!スキだらけじゃないですか!
ボクはそろそろ〜っと彼に歩み寄ると拳銃の照準を彼に合わせ――
「っと、キミはあんまり面白くないかな」
そう言って鋭い視線を向けてくる。まぁ、今の今まで笑っていたので、瞳にうっすらと涙が溜まってるし尚且つ体を折り曲げて床に手をついてる状態なんでそんな風に言われても……という感じなんですが。
何にせよボクはまた拳銃を下ろす事になった。
「兎に角」
怪盗Rは起き上がるとそう呟いた。
「“泥棒”のワタクシに“何故盗む”等というのは愚問だと思うのですが……」
そうですね、と警備隊用の帽子を被りなおしながら尚も笑って
「強いて言うならば――あのご婦人よりも、このワタクシが持ってた方が似合うからでしょうね」
そしてどこから取り出したのか、大きな布のような物を広げたかと思うと、それを剥ぎ取った瞬間彼の服装が変わった。
窓から指す光だけでよくはわからないが、濃い目の髪色、紅い瞳。それにモノクルとリボンタイを付けたスーツのような服。年齢は……口調は大人びていたけれど(というより嫌味ったらしい)若いのかもしれない。
彼は例の宝石を胸元に付けるような仕草をしながらこう付け加えた。
「素敵なブローチ、無敵な私。 ――素敵に無敵、何の問題が?」
……。
…………。
――な、何なんだコイツは?!
そう叫びたくなったが、先に隣のマニエールさんに叫ばれてしまった。
「なるほど!何の問題もない!」
って、オイ!!
よく見るとマニエールさん以下、警備隊の人達は「なるほど」と同じように呟きながら首を縦に振っている。……やっぱりこの警備隊はダメダメだ、と心底そう思う。
「あ、あのですね怪盗Rサン?」
ボクはこめかみがピクピクなっているのを感じながら彼に話しかけた。
「素敵に無敵とかワケのわからない話は置いといて……盗みは犯罪です。如何なる理由があろうとも、人の物を無断で持ってっちゃ捕まるモノなんですよ」
それはアナタだって十分に理解しているでしょう?、とボクは三度拳銃を構えながら言った。
すると彼は嘲るように笑って肩を竦めて、
「えぇ、理解(わか)っていますとも。でも」
カツン
緊迫した空気に押されているのか、全く動かない警備隊を尻目にこちらへ近づいてくる。
「いや、だからこそ――」
カツン
「それを潜り抜けるスリルという物を味わえるんじゃないですか」
カッ……
ボクの目の前まで来て、銃口を事もあろうか、自分の左胸へと当てた。
余りの行動に引き金を引くことも出来ず、ただ目の前で嘲笑う彼を見る事しか……出来なかった。
「これは目的も理由も無い、ただの“ゲーム”ですから」
にっこり、そう形容されそうな彼の表情にボクは激しい怒りを覚えた。
――素敵に無敵だとか、何とか言って、スリル?ゲーム?ふざけた事を!!
「ただのゲームをやりたければ空想の中だけでして頂きたいですネ。アナタのやっている事はゲームではなく、犯罪だ。すぐにその宝石、そして今までに盗んだ物を返しなさい!」
銃を下ろす代わりに彼の胸倉を掴む。 泥棒ならこの“捕まえられた”状況に少しは慌てたらいいものなのに、彼はやはり口元に笑みを浮かべたまま、
「そう言われましても、盗んだ物を返すなどと、一泥棒としてそんな事は出来ないですよ」
とのたまった。
そしてひょい、とボクの手を解くと耳元に口を寄せてこう囁いた。
「まぁ、どうしてもと言うのであれば――ワタクシを捕まえてみてくださいよ。とても簡単な構図だ、盗む泥棒とそれを追う探偵。……捕まえられたら全て終わりにしますよ」
そのままするり、とボクの横を抜け鍵をかけられていた筈の扉をいとも簡単に開けて。
彼は、怪盗Rはその場から消えた。……当然ではあるが、宝石と共に。
「フフフ……上等です、怪盗R」
静寂が支配していた部屋で、ボクは小さくそう呟いた。
本当にイイ度胸です、このボクに向かってあのような事を言うなんて!!
「絶対に捕まえてケチョンケチョンにしてやりますから、覚悟しといてくださいよ……っ」
* * *
「探偵R VS 怪盗R 、何ていうゲームはどう?きっと面白いと思うんだけど。ねぇ、聞いてるかい?レオル」
「――あぁ、聞いてるよ。それをやるとして、一体どっちが探偵?怪盗?」
「勿論!ボクは探偵がいいよ!舞台背景は当然、かのホームズの居たロンドン!シチュエーションも同じように設定してさ、名探偵レイン・ホームズになるんだ!」
「なるほど、それじゃこっちが怪盗ね。怪盗R……か、悪くないね」
「だろう? じゃぁ、決まりだ。さぁ、始めようっ」