夢オチとかそういうの割と好き。
2005.5.31.
台 詞 で 創 作 1 0 0 の お 題
[ 11 ] その間違いすら間違ってる気がする。
「だからこっちだって言ってんだろうが!!!」
「馬鹿シオ、ちゃんとシナリオ読んでたか?入ってすぐの曲がり角を右って書いてあったろ!」
「そっちこそ馬鹿ラス!お前みたいな万年方向音痴、おつかいから家に帰れません坊ちゃんなんかに道の指図受けたかねぇんだよ!引っ込んでろ!」
「……っんだと、コラ!言わせておけばこのクソ馬鹿シオ!俺が言ってんのは、シェルが薦めてくれたちょっと値段は張るけどちゃんとした“公認”のシナリオの事だぞ!
シオが今見てるどこの誰が落書きしたか知んねぇようなボロ紙の事言ってんじゃねぇんだよ!!」
「はぁっ?!あのなぁ、ラスっ、お前まだ家出てからそう経ってないからそんな事言えるんだろうけどなぁ、あんな紙切れ一枚に何千Gも使ってられるハズねぇだろうが!ぼったくりだ、ぼったくり! シナリオなんてのは闇ルートで安く手に入れた方が良いに決まってんだよ!!」
「だあああっ、言わせて貰うけど……冒険者歴は俺の方が長いんだからな!大体先生にだって言われただろうが、『シナリオは値段が高くてもちゃんとした物を買いましょう』って!!」
はぁ……一体いつまで続くんでしょうか。
先ほどからシオさんとラス君はずっとこの調子で怒鳴り通しです。耳の良いエルフのあたしにとっては耳元で大音響のスピーカーを鳴らされている気分ですよ……。
「くぉらっ、ミズリエ!!アンタも他人事みたいにため息なんかついてないで何とか言えぇーっ!!」
え、えええぇっ、あたしの方までとばっちりが?!
ううう……ヤだなぁ、あんまり関わり合いになりたくないんですが。
「う、うう、ええぇーと」
「ホラ見てみろ!ミズリエだって私のが正しいって言ってるじゃねーか!!」
「ええええ?!?! あ、あのっ、あたしまだ何も――」
「うるさい!アンタは良いから黙って!」
ひ、酷いですシオさん……何とか言えっていうから何とか言おうとしたのに。
今度は黙ってろ!だなんて……!!
「あ、あのなぁシオ。お前いくら自分が間違っててそれを認められないからってミズリエに八つ当たりする事ないだろうが。……なぁ、ミズリエ?」
ラス君……!いつもシオさんに負けてるけど、今日は何だか頼もしいですね!
――まぁ、外見はただのミイラ人形ですけどね。
「そ、そうですよシオさん!あたしの意見だってちゃんと聞いて欲しかったです……」
「うっ……ま、まぁ確かにさっきのは私が悪かったよ。反省する」
「ええええええええ!?!!?! シオが反省いいいぃいぃ!!!???
どっうしよう……傘なんて持ってきてねぇぞ?」
シオさんらしからぬ言動は天候さえ左右する、という事でしょうね……ラス君ってホントに怖いもの知らず。
「てめぇ、ラス。後で帰ったら女将に包丁借りてメッタ刺しにしてやるから覚えとけ!!」
「はっ、その前に警備隊に突き出してやるから安心しろ!」
ど、どうしたんでしょう……いつもの喧嘩とはちょっと雰囲気が変わってますよ?
うう、もうこうなったら体を張って止めるべきですよね!
「おおおお、お二人ともやめてください!!!
そっ、それにあたしの意見聞いてくれるんじゃなかったんですか!!!」
「あ?あ、あぁ、そういやそうだったな、うん。……てことで勝負はお預けだ、ラス」
「……だな」
ふう、何とか収まったみたいですね。
良かった、良かった。
「それで?ミズリエはラスが間違ってると思うよな?」
「馬鹿言え、シオが間違ってるよな?」
……うーん、それなんですが……。
「あ、あたしはその間違いすら間違ってる気がする。なぁんて……」
「「なんだとこるあああぁあぁっっっ?!?!?!」」
いきなりアップでお二人の顔、あんど、スピーカーが壊れるような音量の怒鳴り声。
いっ、いやああ……!!!
「すすすす、すみませんんんっ!!!!
お願いだからメッタ刺しはやめてくださいいーーー!!!!!」
* * *
ガバッ
慌てて身を起こすと、そこは宿の一室でした。
「ゆ、夢……ですかっ?」
隣を見ると豪快にタオルケットを跳ね除けて寝るシオさん。
――そ、そうか、夢だったんですね。
「良かったぁ……」
ふと時計を見るともうそろそろ起きて活動を始めなければいけない時間です。
とりあえず服を着替えて、髪を梳かして……。
丁度髪を梳かし終えて、未だに眠るシオさんを起こしに行った時、慌しい足音が向かってきました。
そしてあたし達の泊まっている部屋の前で立ち止まり、
コンコン
「はい?」
「あ、俺ラクラスだけど……入ってもいい?」
「どうぞ。まだシオさんは寝ていますけど」
入ってきたラス君は何をそんなに急いだのか、肩で息をしていました。
「ラス君、一体どうしたんです?」
あたしがそう訊くと、待ってましたとばかりにどん、と胸を叩きました。
そしてこう続けたんです。
「シェルがな!お薦めのシナリオがあるから朝食取ったら来いって!ちゃんと公認だし、値段は張るけどイイとこらしいんだよ♪」
……え?え、え、え???
いや、そんなまさか……正夢なんて事はないですよね?
するとラス君の声で目が覚めたのか、シオさんが起きてきました。
まだ眠いんでしょうか、欠伸をしながら言いました。
「バッカ言え、シナリオなんてのはな、闇ルートで安く手に入れりゃ良いんだよ」
う、嘘でしょうーーーっっ?!?!
正夢になるなんて――いっ、いやああ……!!!
「あ、あの……」
あたしは勇気を振り絞って二人の間に入りました。
「ええと、あたしお金出しますから、シナリオはシェルさんの所で買いましょうね?!」
「……なんかミズリエ変なんだけど、何かあったのか?」
「いいええ、そんな事ありませんよぅっ!!」
おかしいですね、暑くもないのに汗が出てきますっ。
「まぁ、別にミズリエがお金出してくれるんならいいけど……」
「おう!俺も構わないぞ〜、てか俺はもともとシェル派だし」
よし、これで“ちゃんとした”シナリオが手に入るハズです!
だからお二人も喧嘩なんかしないで仲良く冒険出来ます……よね?