台 詞 で 創 作 1 0 0 の お 題
[ 8 ]  話して、その尊い未来の事を。

 陽がおちる間際、人気のない丘の上で一組の男女が居た。
 男はその夕陽を背に、女の手をとり――

「……話して、その尊い未来の事を……っぶふぉっっ!!!!」

「っだーっ!! 何なのアンタは!汚いわねっ!!」

 ………………。
 ――結構シリアスなシーンかと思ったのだが、それはどうやら思い違いだったようである。



 * * *



 改めて紹介しよう。
 彼らは木下猛(たける)、木下奈央(なお)と言い、正真正銘の双子である。とは言っても男女の双子、当然のように二卵性なのでそんなに似ていない。
 現在高校二年生で、どちらかと言うと猛の方が尻にしかれている感じだ。
 そしてそんな彼らは前述の通り、人気のない丘の上に居た。

「だってよ、奈央。こんなクサい台詞、シラフで言えっつーのは拷問に近いと思わね?」
 顔を最大限に歪ませながら(勿論笑っているのだ)猛がそう言った。
 彼が今手にしているのは厚さ1Cmほどの冊子。表紙には“2年1組 文化祭劇台本”と大きく書かれていた。
「う、うるさいわね!あたしだってそう思うけど何とか笑いこらえてんでしょうが!」
 同じく台本を手にしながら、奈央。その顔は真っ赤で本当に“笑いをこらえている”という感じだ。
 すると猛が笑いを潜めて怪訝そうに訊いた。
「笑いこらえる、ってお前。まだ練習に付き合ってる俺ならわかるけどさー、一応ヒロイン役なんだろ?」
「一応は余計よ!」
 すぐさま奈央が訂正をいれる。
 その反応に「はいはい」と言って、猛は続けた。
「そのヒロインさんが未だに笑いこらえてるようでどーすんだよ?……本番て確か明後日だったよなぁ?」
 本来なら“ニヤニヤ”という効果音をつけるような顔をしたい所だが、流石に期日が近すぎた。
 猛は勝気な妹を見ながら顔をしかめる。
「ったく、何でこんな救いようのないようなベタベタ恋愛なんかしようと思ったんだか」
 ふぅ、とため息をつくと奈央が深く頷きながら返した。
「ホントそうよね!あたしは反対組だったんだけどさー、ウチのクラス女の子多かったから結局こっちになっちゃったのよ。……実行委員長がこーいうの好きだしねぇ」
 全くあの子も困ったものよね、と台本の裏表紙を見ながら奈央もまた、ため息をついた。


 ちなみに彼らが今話しているのは、2日後に行われる“文化祭”の事だ。
 同じ学校に通っているが、猛と奈央はクラスが違う。
 猛のクラスは劇ではなく教室で至って普通の喫茶店を開くことになっていて、、猛は裏方に回っている。
 そして先ほどからの会話でお分かりだろうが――
 奈央のクラスは、超ベタ甘な脚本での劇をやることになっていた。
 内容はまぁ、アレだ。所謂“王道”モノで。


「偶然すれ違った王女に青年が一目惚れ……、んでもって実は王女も惚れてた、と」
 あらすじを読みながら猛が呻いた。

「そんな中王女は王様の陰謀?で無理やり隣の国の王子と結婚させられそうになる。……その事に怒った王女は城を飛び出して――青年と会う、っと。
 大まかな事情を話すものの、“王女”だと打ち明けられない彼女を青年が匿って。でも結局は王様の家来に捕まり、王女は勝手に進められた結婚式の日まで軟禁されてしまう。
 その頃青年は全ての事情を知り、彼女を助け出すために城に向かう。
 そして数々の罠などの試練?を乗り切り見事王女を救い出す青年。
 怒って喚きたてる王様に、彼はこう一言申し出た。
『隣の国の王子です。 式までは待てずに、こうして伺った非礼をお詫びします』
 全てを知った王女と青年(王子)、政略結婚だと思っていたのに二人は既に心を通わせていたのだった。
 そして、その晩――
『○○(王女の名前を入れる)、君は……未来の事を考えたことが?』
『えぇ、あるわ。 今も――考えてる』
『そう……それじゃ、教えてくれるかな?……話して、その尊い未来の事を』
 王女は優しく微笑んで王子にそっと寄りかかる。
『貴方と、○○(王子の名前を入れる)と……ずっと、一緒に居る未来よ』
 ――そうして、王女と王子は結婚して末永く幸せに暮らしました」

「てーか、このあらすじからして俺死にそう。ね、死んでもイイ?」
 頭を抱えながら、猛がそう呟く。奈央は「練習が終わってからね」と返した。
「いや、でもホント何コレ。誰、こんなの考えたの?どう控えめに見ても噴出すじゃん、お前大丈夫なの?」
 奈央が声を挟む隙間も与えずに、続ける。
「極めつけはコレだよコレ。 “○○(王女の名前を入れる)”。
 なーんーでーすーかー、コーレー!!?」
 その大げさなリアクションに、奈央ははぁっ、と息を吐いた。
「それね……配役の人の名前、入れるのよ。だから――王女は“奈央姫”なワケ」
 死にたいのはこっちなの、わかる?、と泣きマネ――実際、ほとんど泣いていた――をしながら、奈央は付け足した。


「だから、そんなワケで真面目にヤバイからアンタに手伝って貰おうと思ったのよ!」
 なのにアンタときたら……、そう呟いていると猛が顎に手を当てて首を傾げながら言った。
「アレ、でもちょっと待てよ。 そういや俺、この相手役誰だか聞いてねーぞ?」
「……はぁ? べ、別に聞かなくてもいいじゃないの」
 眉間にしわを寄せて――でも、どことなく照れながら奈央は言った。そんな奈央に“双子”の猛が気づかないはずもなく。
「ははぁ〜ん、さては奈央。 相手役は好きなヤツ、とか?」

 ぼふっ

 と、聞こえるくらいの勢いで奈央が噴火する。……もとい、顔を紅くさせた。
 珍しく正直な反応を出す妹に、かなり驚いた猛は興奮したように問いただす。
「え、マジで?! うっわー、誰?! 誰?!?!」
「……い、言えるワケないでしょ!!? だっ、大体あたし、まだ相手役が好きだなんて言ってな――」
「お前、その顔じゃ全然説得力なしっ。 ほら、言えって!隠し事なしだろー」
 うりうりぃっ、とわき腹をつつく。すると奈央は真っ赤な顔を俯かせて、ごにょごにょと呟いた。
「え? 聞こえないって」
「……くら」
「ごめん、もっぺん言っ――」
 余りに小さい声で聞こえなかったものだから、耳元に手を当てる。
 すると奈央は何かがキレたのか、立ち上がって叫ぶように言った。

「あ、浅倉よ!! 浅倉大貴(あさくらだいき)……!!!」

 顔を真っ赤にして、そう言った妹に、兄としては本当に驚いたのだろう。
「い、いや……別に立ち上がって叫ばなくてもいいんだけど……な?」
 どうどうどう、と宥めて隣に座らせる。
 そして、そこまでやって……やっと猛は気づいた。
「あれ……でもお前、浅倉なんてだいっ嫌いって前言って――」
 なかったっけ?、という言葉は奈央の裏拳に消えた。
「と、とと、兎に角!! あたしは2日後に無様な姿を見せるワケにはいかないのよ!!」
「――うん、それはわかったけど、俺のほっぺにめり込んだ手は頂けないな」
「だから、アンタはちゃっちゃか、あたしの手伝いをすればいいの!!」
「――え?何?俺の意見無視?」
「ほら!今度は噴出さないようにしてよね、猛!」
 ……なかなか、噛み合ってない会話である。
 顔を真っ赤にしたまま、明後日の方向を向いてまくし立てる奈央を見て、猛はため息をついた。きっと、“何を言っても無駄”という事がわかったのだろう。
 (まぁ、好きなヤツってのが聞けただけで面白いからいいけど)、そんな事を思いながら台本を手に取った。
「あぁ、わかったよ。……んじゃ、どっからやるよ?」
 コホン、とわざとらしい咳をして奈央は言った――



 * * *



 彼は隣に立つ彼女の髪を一房手に取ると、それに口付ける。
 光を反射したその髪は、綺麗に輝いていた。
「奈央、君は……未来の事を考えたことが?」
 優しく微笑んで、そう尋ねた。
 彼女は彼の方を向くと、
「えぇ、あるわ。 今も――考えてる」
 と、答えた。
 彼は軽く目を見開くと、やはり、微笑んだままでまた尋ねる――

「そう……それじゃ、教えてくれるかな?……話して、その尊い未来の事を」

 彼女は優しく微笑んで彼にそっと寄りかかった。
「貴方と、大貴と……ずっと、一緒に居る未来よ」



 * * *



 大盛況、拍手が鳴り響く中、
「――奈央のヤツ、ありゃぁ、マジ入ってんなぁ……」
 観客席の後ろの方で、猛がそう呟いた。
何 で す か 、 コ レ ー ! ! ! (叫
久しぶりに小説書いたんで、もう忘れてる、忘れてる;;
とりあえず自己満足すら出来てないモンですが、これはこれでお終い!
ちなみに浅倉君は、迷探偵番外編「願い」に出てくる“浅倉”のお兄さん。

2005.4.20.