台 詞 で 創 作 1 0 0 の お 題
[ 2 ]  スキ・キライ・スキ、……スキ。

「やっほーう、恋する乙女なくーちゃん♪」
 右手を挙げて高らかと叫んでくるのは、見間違えようもない、オレンジ髪が目立つナナだった。

「なっ!なっ!……なっ?!」
 そんなナナに呼ばれた刳灯と言えば、確かにたった今“乙女ぶった”事を考えていたものだから否定する事が出来ず、ただ一音、発する事しか出来なかった。
「おやぁ、反論なしですか。ふふふ、てことは図星だったんだ!へぇー、ふーん、ほぉ〜vvv」
 ニヘニヘ、といかにも楽しんでます、といった表情で近づいてくるナナ。
 刳灯は思わず後ろを向いて逃げ出そうとした……のだが、
「刳灯ーっ、掃除の時間はまだ終わってないんだからなー!」
 頭上から響いてきた愛しい(これを他の人に聞かせたら確実に石化するだろう)フレアの声に体を縛られてしまったのだった。

 ――そう、今は掃除時間で、刳灯は教室の真下に位置する花壇の当番なのだ。そして今や刳灯の真正面まで来たナナは清掃監視当番で。
 ……ちなみに清掃監視当番とは、掃除をサボってる人がいないかをチェックするもので、一週間に一回、クラス総出のじゃんけん大会で優勝した者にその役割が与えられる。結局は公然と掃除をサボれる役で競争率も高いワケである。
 まぁ、その代わり各掃除場所を見回らなければいけないので大変と言えば大変なのだが。

「わ、わかってる!ただちょっと身の危険を感じただけだ!」
 どうかこれが外の暑さのせいだと勘違いしてくれますように、と祈りながら、赤面したままの顔で上を向いた。
 フレアは今週教室の掃除で、どうやら黒板消しの係のようだ。両手にオレンジと緑の黒板消しを持ち、周りに白煙を立ち上らせている。
「なら、良し。サボらず続けろよー?」
 委員長らしく、フレアは掃除をサボる事はなかった。とは言え、適度に手を抜いてはいるようだが。
 チョークの粉をはたき出した黒板消しを持ち、窓際から姿を消したのを見届けた後、地面に視線を移して本当に暑さのせいなのか、そうじゃないのか、わからなくなった熱い頬を手で包み込んだ。

 そしてそんな様子を一部始終見ていたこの人。

「……愛だね、愛」
「うわああぁあっっ?!?! ま、まだ居たのか、ナナ!」
 ぼそっ、とかなり至近距離で呟かれた言葉は刳灯の頭の中に直撃したようだった。
 ナナはその驚きように「心外だな〜」とケタケタ笑いながらペンでノートに丸を付ける。
「ま、サボったりはしてないよーだし。
 何よりその乙女根性が面白いから、二重丸のトコにつけといてあげたからねv」
 赤丸をつけた部分を刳灯に見せたナナはふと思い出したように、ポン、と手を打った。
「あ、でも花は大切にしなきゃダメだかんね。花占いなんてしないよーにっ!」
 にゃぁああっはっはっは!!、と学校全体に響き渡ってもおかしくないような大声で笑って、
「んではっ!」
 と言って、別の掃除場へと行ってしまった。

 そして残された刳灯はというと。

「なっ……サトリなのか? そうなのか?!」
 頭を抱えて蹲っていたのだった。

『スキ・キライ・スキ、…スキ?』
 恋する乙女の必需品(?)な花占いに花壇の花を使うのはやめましょう。

 刳灯はナナが来るすぐ前に摘み取ろうとしていた花を見ながら呟いた。
「……アイツ、ホント怖ぇ」

 ――その前にそんな事をしようとしている事自体が“怖ぇ”だという事を、彼はまだ気づいていない。
R学園の掃除時間、乙女な刳灯と清掃監視ナナさん。

2004.12.5.