新年早々、ひたすら微妙なモンをお届けして申し訳ない!
いやなんちゅーか、ノリが甘くって……つかこれ書いてんの31日ですよ!ギリギリだっての!(泣
まぁ、何はともあれ、楽しんで頂けたら幸いであります。
ではでは、皆さん。 良いお年をお過ごしくださいませ!!
2005/1/1 「既視感」 れんた
「あれまひておめれとうござんはすーっ!!」
一体何があったんだ。
その場に居た全員が、思わず鳥肌を立たせていた。
そう、これはある冬の日の出来事の話。 「ねね、来年の正月はどうするぅ?」
12月の末、他の学校と同じように珍しくまともな(!)終業式が終わったあと。R学園の名物“変クラス”は家に帰る準備をしている生徒で騒がしくなっていた。
そしてそんな騒がしい中で、ひときわ目立つこの人。
「……ナナお前ねぇ、正月じゃなくてその前に自分の鞄の事考えろよ」
オレンジ髪をしっぽのように結んだナナの言葉に、フレアが横からちゃちゃを入れた。ちなみにフレアは茶色い髪をポニーテールにしている、このクラスの委員長である。まぁ、“委員長”という時点でわかっているかもしれないが、このクラスを纏められる……ある意味ボスの彼女はきっと誰よりも“変”なのであろう。
――あっ、ここオフレコね?
兎に角、フレアは大げさに肩をすくめたのだった。
「へ?あ、これ? にゅっふっふ、だいじょおぶだよフレア君! もしもって時にちゃぁんと家のヤツ呼びつけてあるから〜♪」
今にもはちきれそうな鞄をぽむっ、と叩いたナナはどこからともなく携帯電話を取り出して笑う。
フレアはその答えに「あ、そう……」とだけ返す。本当は、“フレア君”って何ですか、とかこういう時だけ家の者を使うな、とか色々言ってやりたかったが、言っても無駄な事はわかりきっている。
フレアは軽くため息をつくと、自分もまた帰る準備を再開した。勿論……鞄はいつもの大きさである。
「ま、鞄のコトは置いといて! どーするのさ、正月〜」
今年は所謂“いつものメンバー”でR学園から程近い神社にお参りに行っていた。普段滅多に会わない人を呼びつけたり、それぞれにおみくじをひいたりして、なかなか楽しい正月を過ごせていた。
「また今年と一緒でいいんじゃないのか?……あ、私はちょっと用事があるから無理だけどな」
パタパタと顔の前で手を振りながら、フレア。
すると、やはりナナと同じようにはちきれんばかりに詰め込まれた鞄相手に奮闘していた美沙君も加わってきた。
「何だ、どこか別の神社にでも行くのか?フレア」
今日もまた全身を黒服で包む美沙君。側から見ると怪しい事この上ないのだが、ただ一つ利点もあった。つまり――黒、というのは暖かいのだ。
まぁ、そんな事はさておき。
「いや、出かけるワケじゃないんだが……家に人が集まる予定なんだよ」
美沙君の言葉に、フレアはそう返した。
その顔はどこか嬉しそうで、普段の彼女ならなかなかお目にかかれそうもない雰囲気だった。
そしてそれをあらぬ方向へ取った美沙君。
「……ふむ、恋人……か」
キラリン!といかにもそれらしく顎に手を当てて言い放つ。自分の中では「名探偵」として映っているのだろうか、目を閉じて格好をつけているものだから、背後から忍び寄るものに気づかなかった。
そう、背後には蛇腹折の例のアレが……!
ズバシコンッッッ
景気の良い音(?)を響かせて振り下ろされたのは、皆さんお馴染みのハリセンだ。
しかし振り下ろした人は“お馴染み”の人ではないようである。
「なっ、なんで刳灯がソレ持ってんだっ!!」
脈絡なく叩かれたせいか、かなり吃驚した顔の美沙君。最早“なぜ叩く”という台詞は浮かんでこないようである。……何というか、慣れ、とは恐ろしいものだ。
ハリセンを振り下ろした刳灯はと言うと、美沙君の言葉なんておかまいなしにフレアの方へと歩み寄った。
「な、何か用か?」
いつもならばハリセンなど持たずに、普通にやってくるのに今日はちょっと勝手が違う。フレアはそんな刳灯に戸惑いを覚えながらも話しかける。
すると刳灯はハリセンを持ったままフレアの肩を掴み、こう言った。
「……こ、恋人と正月過ごしてるって本当なのかっ?!」
それはそれは、可哀想になるくらい青ざめた顔で。
それはそれは、思わず慰めてあげたくなるくらい掠れた声で。
彼はそう訊いた。
その言葉にフレアはしばし沈黙し――そしてぽんっ、と手を打った。
「いや、“恋人”というのは美沙が言った想像のものさ。正月に来るのは、昔の知り合いだよ」
はは、勘違いしたのか?、とからかうように笑った。
刳灯はそれを聞いて安心したように大きく息を吐く。まぁ、アレだ。“恋する乙女”も大変なのだろう。
ちなみに“恋する乙女”とは読んで字の如し。恋をしている人の事を指す。……そう、この刳灯という少年はフレアにべた惚れなのだ。少し前に告白らしきものもしており、今やその気持ちを隠さずにアタック(え、古い?)しているらしい。
「ま、そういう事だから私はパスな」
肩を掴んでいた刳灯の手をやんわりとほどき、ナナの方へ向きかえる。……そして後ずさる。
振り向いた先のナナがやたらと嬉しそうに笑っていたからだ。
「にゅ〜っふっふっふ!だいじょおぶだよ、フレア君!」
いや、またなんで“フレア君”なんですか、と心の隅で思ったものの、目の前で不敵に笑うナナが怖くて言い出せない。こういう時のナナは、一番恐ろしいのだ。
「今ピーン!と閃いたんだけどさぁ。 今年はフレアの家で年越しパーティとかやらないかなっ!?」
突然の言葉にフレアは再びしばしの沈黙――そして目を伏せて小さく笑った後、大きく息を吸い込んだ。
「……お前なぁ、寝言は寝て言え、って教わらなかったのかっ?!」
いやいや、それは教わるモンじゃありませんから、とどこからかツッコミが入るのも軽く無視して、フレアは言い放つ。
「だから正月は人が来るから無理だって言ってるだろ!なのに何で私の家で年越しパーティを開こう、なんて考え付くんだ!」
ちったぁ考えろ!、とお怒りモード突入フレア。
「やっだなぁ、フレアってば。そんな常識的な事言っちゃってv ていうか寝言じゃないしね〜」
対するナナはにっこにっこと笑いながら、指を顔の前で振った。
「だってさ、フレアのお友達ともお知り合いになりたいし、何よりフレアん家って大きいじゃん!いくら騒いでも苦情とかこないっぽいから、宴会会場としては最適だよ!」
うんうん、と一人納得するように首を縦に振る。フレアの怒り測定ゲージは、ナナの、余りに自分勝手な発言によってぐんぐん溜まっていく。そしてそれが頂点に達し、怒り度MAX状態で言い返そうとした、その時。
ナナは「あ、もしかして」、と手を打った。
「やっぱりフレアの事だから、お正月に来るのは本当は恋人で、“お正月は二人だけで迎えたいの♪”とか思ってるから、無理ー!って感じだったりするのかなぁ?」
先ほどからやけに笑顔でいると思ったら――やはり今日のナナからは相当黒いオーラが出ていたらしい。 にゃはっ、と当社比300%増くらいに黒い笑顔を浮かべている。……はっきり言って、書いてる作者も非常に不愉快な気分になるほど黒い。
そしてそんな黒すぎるナナに呑まれてしまったようだ。
フレアは顔を紅く染めて――罠に嵌った。
「そ、そんなワケあるか!! いいだろう、パーティでも何でもやってやる!!!」
言い終えた後でしばしの沈黙。どこからか「あちゃー」と言う声も聞こえてきていた。
だが、我に返っても時既に遅し。
ナナは懐からボイスレコーダーを取り出して、フレアの台詞をリピートさせた。
『そ、そんなワケあるか!! いいだろう、パーティでも何でもやってやる!!!』
満面の笑みで微笑んで、興味津々で見守っていた皆の方へ振り返る。
「ってことでぇっ! 大晦日から新年へ向けて、フレアん家で年越しパーティ開きまーっす!!
参加したい人は大晦日、フレアの家の前で集合! 来てくれるかなーっっ?!」
耳元に手をあてて、ポーズを取る。
皆が返す言葉は決まっていた。
「「「 いいともーっっっ!!! 」」」
――って、オィオィ!
* * *
やって来ました大晦日。
肌寒いその日の朝、豪邸とも呼べるフレアの家の前にはちゃくちゃくと人が集まっていた。
「お、尚ちゃーん!こっちこっち!」
片手をあげて大きく振っているのは諸悪の根源……もといブラックナナさんだ。
その周りには既に結構な人が居る。ここで名前をあげてもわからない人がいるかもしれないが――まぁ、正月だし細かいことを気にする必要もないだろう!
という事で、来ている人を紹介するとしよう。
まず先ほどやってきたのはハリセン馬鹿こと山下君だ。やってきた瞬間から黒い馬鹿……いや、美沙君にからかわれている。この二人の間柄も今年は少し進展するといいのだが。……と独り言、独り言。
他は当然のように喧嘩している刳灯とココロや、どこから情報を仕入れてきたのか、学長までいたりした。……恐らく、沙雪さんが参加する、という事を聞いてやってきたのだろうが。
あと、ナナの近くに居る羽耳さん。彼女の名前はラーファンと言い、夏場は相当な露出になる年頃の娘さんだ。そしてそのラーファンとおしゃべりをしているのはR学園でひそかにファンクラブなんかも設立されている女王様、シーミナ。今日も相変わらず素敵な笑顔を見せている。
少し離れた所にはピスティアとプリスタがいる。ピスティアはエルフの娘で、何を間違ったのか一時期山下君に惚れてたりしていた人だ。プリスタはと言うと、そんなピスティアに振り回される……所謂、苦労人の類に入るヤツだった。
……とほぼ“いつものメンバー(プラスα)”ではあったが、まぁ、兎に角ナナの企画(?)は成功のようだ。
事前に来る人はナナにそれを伝えていたらしい。何やら名前が書いてある紙に丸をつけると、「よし」と頷いて皆の注意を引くために両手をあげた。
「一応参加者全員集まったから、早速フレアん家突入しよっか!」
集まった人達は、それぞれに返事をして頷いた。
「んじゃ、いざぁ参れえぇっ!!」
ナナの掛け声(?)と共に、一向はフレアの家へと入っていった。
中に入ると、そこは既にパーティ会場と化していた。
派手な飾り付けに、壁際にあるいくつもの豪華な花束。天井にはご丁寧にも(!)ミラーボールまでついている。……まさしく、“宴会会場”である。よくよく見ると、某サンバの衣装なんかもあるようだ。
「うっわー、何だかんだ言ってフレアったらヤル気満々じゃんかぁ♪」
ひゅぅ〜♪と口笛を吹くナナ。確かに会場を見る限りでは、ヤル気満々である。
……と、フレアがやってきたようだ。
「やっぱり来たか……まぁ、一応いらっしゃい。他のヤツ等も、もう来てるからこっち来いよ」
そう言ったフレアの後についていくと、会場よりは若干小さな部屋に通された。そこには既に数名の男女が居て、ぞろぞろと入ってくる一行を出迎えた。
「とりあえずコイツ等の名前の紹介だけしておくな。お前等の事は後から自分で話したり出来るだろうし」
まず……、と左の方に居る金髪の少年を指差した。
「まぁ、言わなくてもわかってるだろうがファルギブだ。アイツも昔からの知り合いでな。
……でその隣がアスレア」
紹介されたファルとアスレアが軽く頭を下げた。
「んでこっちの小さいのがリーテスで、水色頭がティカ」
「ちょっと、小さいのは余計なんだけど!」
眼帯を付けた……確かに小さい少年が怒り気味に返す。その隣でティカ、と呼ばれた青年が意地悪そうに笑っていた。
「後は――っと、あ、来た来た。おぃ、アルスラ!」
キッチンの方のドアから紅い髪の女性がやってきた。その手には料理の乗ったトレイ。
……じ、実に美味そうである。
「あ、フレアの友達が来たのね。こんにちは、アルスラよ」
アルスラはにっこりと微笑むと、そのままパーティ会場となっている客間へと入っていき、フレアの知り合いの5人もそれについていった。
「……と、こんな所だ。後は各自で紹介でも何でもすること」
皆は深く頷く。
それを見たフレアは「よし」と言うと、パーティ会場へ促した。
そして宴が始まった。
まさしく飲めや歌えや、の騒ぎで、周りに家があったら確実に苦情がくるだろう、と思われるくらいに煩かった。家に入ってからすぐに見た、例のサンバ衣装もきっちり使われていたようである。
料理は全てフレアと一緒に暮らしているグリッセルのお手製で、それはそれはほっぺたが落ちるくらいに美味しいものだった。それにパーティ参加者は何かしら家から持ち寄っており、デザートの類もたくさんあった。
そして言わずともわかってる方がおられるかもしれないが――
大ジョッキに汗を滴らせて浮かぶ琥珀色の液体。
グラスに入った緋色のモノ。
――などなどなど。
お前ら未成年だろうが、というツッコミが繰り出されることはなく、酒も振舞われていた。
酒のせいもあるかもしれないが、相当ハイな雰囲気の中で、フレアは一人ジュース片手に楽しんでいた。しかしジュースを飲む人間は少ないので、当然のように量も少なかったようだ。
空になったペットボトルをゴミ箱に入れ、辺りを見渡す。
すると少し離れたテーブルに、グラスに入った白ワインが並んでいた。
その時、どうしても喉を潤したかったフレアは「仕方ない」と呟くと、人を押しのけてグラスを手にとった。
「ありゃ、フレアそれお酒だけど大丈夫なのぉ〜?」
琥珀色の液体――早い話がビールを持ったナナが話しかけてくる。勿論、顔は真っ赤になっており、その隣では同じようにビールジョッキ片手に出来上がっている美沙君も居た。
「そうだぞぉ、ふれあぁ。お前さっきから見てたけど、ジュースしか飲んでなかったじゃないかー」
なははははは!!と2人とも完全に酔っ払いになっていて、ものすごいウザったい。
フレアは忠告(?)を無視すると、一気にグラスを煽った。
そして図ったように鳴り響く、刻の音。
時計の針は12を指して重なっており、それは新年の幕開けを意味していた。
「おー、もう2005年ですかぁ……んふふふ、今年もよろしくね〜ん」
ナナのその言葉を合図に一斉にグラス……またはジョッキが高く持ち上げられた。だが、先ほどワインを一気飲みしたフレアはその状態から動いていない。
流石に家主をほっておいて新年の挨拶をするワケにもいかない、そう思ったのだろうか。ナナはフレアの頬をパチパチと叩いた。
「おーい、フレアぁ。新年ご挨拶ですよー?」
すると焦点のあってなかった目がナナの顔の辺りで止まり……フレアはグラスを高く持ち上げた。
「あれまひておめれとうござんはすーっ!!」
一体何があったんだ。
その場に居た全員が、思わず鳥肌を立たせていた。
さっきの、思いきり呂律の回っていない言葉は紛れもなくフレアの出したもので。……という事はもしかしてワイン1杯で酔ってしまったという事なのだろうか。
「あんれへ? 皆おめれとーはぁ?」
にこにこ、と普段のフレアからは考えられない――いや、考えたくないほどの笑顔だった。皆はそれぞれのグラスやジョッキを高くかかげた状態のまま、固まっている。
当然、酔いなどとっくの前に醒めてしまっていた。
「ほら、おめれとーらよ。 はい、っせーのぉで」
「2005年、おめれとー!!」
「「お、おめでとー……」」
一番盛り上がるはずの場所で何故か盛り下がってしまい(というより、恐ろしかったようだ)皆はぼそぼそと新年の挨拶をした。
* * *
結局家主のフレアがべろんべろんに酔ってしまったので、その後すぐにパーティはお開きになった。
ナナ達はこれから近くの神社に初詣に行くと言い、フレアの知り合い5人は別の所でやる事があるから、とそれぞれに家へと帰っていった。
そして静まり返った家の中。
「ところでマスター。貴方、確かお酒はかなりの上戸だったはずですよね?」
グリッセルが玄関で皆の後姿を見送りながら呟いた。
すると先ほどまでは全く呂律の回ってない口調だったはずのフレアがやけにはきはきと返してきたのだ。
「当たり前だろう。酒は飲んでも呑まれないんだよ」
……ちなみに“上戸”とは酒に強い人の事を指す。どうやらフレアは酔った“フリ”をしていただけらしい。
グリッセルは扉を閉めながら息を吐くと、吹き抜けになった2階に居るフレアを見上げた。
「全く、何でまたそんな皆さんを騙すような事をするんですか。新年早々、嘘をつくだなんていけませんよ」
「でも仕方ないだろう?グリス。そうじゃないと“二次会”が開けなくなる」
ストッ、と小さな音を立てて上から飛び降りる。
そして先ほどまで皆が居て、散らかり放題だった客間のドアを開けた。
「ちょっと遅かったわよフレア」
ウェーブのかかった紅い髪の魔女。
「ま、こんなモンなんじゃねぇの」
長い金髪の魔法使い。
「……十分に遅いと思うけどね。早く座ったら?」
眼帯をした守人の少年。
「ちょっと待て、何で俺の前の皿だけピーマンばっかなんだ!」
水色の髪の弟子持ち魔法使い。
「久しぶりだな、元気でやっていたか?」
黒いストレートを靡かせて立ち上がる創造主。
フレアは久しぶりに見る顔に、思わず笑みを零した。
客間のドアをそっと閉め、一つ、空いていた席に腰掛ける。
そしてグラスを高くあげて、こう言った。
「さぁ、宴のはじまりだ!」
x x x
さてはて、こちらは近所の神社。
お参りをした後、そこで配っていた甘酒を飲みながら、ふとナナは考えた。
(あっれー?よく考えればフレアってお酒強くなかったっけ?)
思い返せば、あの酔い方は半端じゃなかった。……というより、余りに大げさだった。
(まさか演技だったとかぁ?)
ずずずずっ、と甘酒を啜りながらそう思ったものの。
(――ま、どうでもいっか!)
ナナにとっては、フレアのアレが演技だろうと演技でなかろうと関係ないようだった。
紙コップの底を持ち上げて最後まで飲み干すと、再び甘酒を配っているテントに行って、軽く手をあげる。
「オバちゃん!甘酒もう一個ちょーだ〜い♪」
新しい紙コップの中には暖かい甘酒。
ナナはただ甘酒の事だけを考えて、にんまりするのだった――
ま、っちゅー事で、今年も1年よろしくしたってくださいませ!!
F i n .
一体何があったんだ。
その場に居た全員が、思わず鳥肌を立たせていた。
そう、これはある冬の日の出来事の話。 「ねね、来年の正月はどうするぅ?」
12月の末、他の学校と同じように珍しくまともな(!)終業式が終わったあと。R学園の名物“変クラス”は家に帰る準備をしている生徒で騒がしくなっていた。
そしてそんな騒がしい中で、ひときわ目立つこの人。
「……ナナお前ねぇ、正月じゃなくてその前に自分の鞄の事考えろよ」
オレンジ髪をしっぽのように結んだナナの言葉に、フレアが横からちゃちゃを入れた。ちなみにフレアは茶色い髪をポニーテールにしている、このクラスの委員長である。まぁ、“委員長”という時点でわかっているかもしれないが、このクラスを纏められる……ある意味ボスの彼女はきっと誰よりも“変”なのであろう。
――あっ、ここオフレコね?
兎に角、フレアは大げさに肩をすくめたのだった。
「へ?あ、これ? にゅっふっふ、だいじょおぶだよフレア君! もしもって時にちゃぁんと家のヤツ呼びつけてあるから〜♪」
今にもはちきれそうな鞄をぽむっ、と叩いたナナはどこからともなく携帯電話を取り出して笑う。
フレアはその答えに「あ、そう……」とだけ返す。本当は、“フレア君”って何ですか、とかこういう時だけ家の者を使うな、とか色々言ってやりたかったが、言っても無駄な事はわかりきっている。
フレアは軽くため息をつくと、自分もまた帰る準備を再開した。勿論……鞄はいつもの大きさである。
「ま、鞄のコトは置いといて! どーするのさ、正月〜」
今年は所謂“いつものメンバー”でR学園から程近い神社にお参りに行っていた。普段滅多に会わない人を呼びつけたり、それぞれにおみくじをひいたりして、なかなか楽しい正月を過ごせていた。
「また今年と一緒でいいんじゃないのか?……あ、私はちょっと用事があるから無理だけどな」
パタパタと顔の前で手を振りながら、フレア。
すると、やはりナナと同じようにはちきれんばかりに詰め込まれた鞄相手に奮闘していた美沙君も加わってきた。
「何だ、どこか別の神社にでも行くのか?フレア」
今日もまた全身を黒服で包む美沙君。側から見ると怪しい事この上ないのだが、ただ一つ利点もあった。つまり――黒、というのは暖かいのだ。
まぁ、そんな事はさておき。
「いや、出かけるワケじゃないんだが……家に人が集まる予定なんだよ」
美沙君の言葉に、フレアはそう返した。
その顔はどこか嬉しそうで、普段の彼女ならなかなかお目にかかれそうもない雰囲気だった。
そしてそれをあらぬ方向へ取った美沙君。
「……ふむ、恋人……か」
キラリン!といかにもそれらしく顎に手を当てて言い放つ。自分の中では「名探偵」として映っているのだろうか、目を閉じて格好をつけているものだから、背後から忍び寄るものに気づかなかった。
そう、背後には蛇腹折の例のアレが……!
ズバシコンッッッ
景気の良い音(?)を響かせて振り下ろされたのは、皆さんお馴染みのハリセンだ。
しかし振り下ろした人は“お馴染み”の人ではないようである。
「なっ、なんで刳灯がソレ持ってんだっ!!」
脈絡なく叩かれたせいか、かなり吃驚した顔の美沙君。最早“なぜ叩く”という台詞は浮かんでこないようである。……何というか、慣れ、とは恐ろしいものだ。
ハリセンを振り下ろした刳灯はと言うと、美沙君の言葉なんておかまいなしにフレアの方へと歩み寄った。
「な、何か用か?」
いつもならばハリセンなど持たずに、普通にやってくるのに今日はちょっと勝手が違う。フレアはそんな刳灯に戸惑いを覚えながらも話しかける。
すると刳灯はハリセンを持ったままフレアの肩を掴み、こう言った。
「……こ、恋人と正月過ごしてるって本当なのかっ?!」
それはそれは、可哀想になるくらい青ざめた顔で。
それはそれは、思わず慰めてあげたくなるくらい掠れた声で。
彼はそう訊いた。
その言葉にフレアはしばし沈黙し――そしてぽんっ、と手を打った。
「いや、“恋人”というのは美沙が言った想像のものさ。正月に来るのは、昔の知り合いだよ」
はは、勘違いしたのか?、とからかうように笑った。
刳灯はそれを聞いて安心したように大きく息を吐く。まぁ、アレだ。“恋する乙女”も大変なのだろう。
ちなみに“恋する乙女”とは読んで字の如し。恋をしている人の事を指す。……そう、この刳灯という少年はフレアにべた惚れなのだ。少し前に告白らしきものもしており、今やその気持ちを隠さずにアタック(え、古い?)しているらしい。
「ま、そういう事だから私はパスな」
肩を掴んでいた刳灯の手をやんわりとほどき、ナナの方へ向きかえる。……そして後ずさる。
振り向いた先のナナがやたらと嬉しそうに笑っていたからだ。
「にゅ〜っふっふっふ!だいじょおぶだよ、フレア君!」
いや、またなんで“フレア君”なんですか、と心の隅で思ったものの、目の前で不敵に笑うナナが怖くて言い出せない。こういう時のナナは、一番恐ろしいのだ。
「今ピーン!と閃いたんだけどさぁ。 今年はフレアの家で年越しパーティとかやらないかなっ!?」
突然の言葉にフレアは再びしばしの沈黙――そして目を伏せて小さく笑った後、大きく息を吸い込んだ。
「……お前なぁ、寝言は寝て言え、って教わらなかったのかっ?!」
いやいや、それは教わるモンじゃありませんから、とどこからかツッコミが入るのも軽く無視して、フレアは言い放つ。
「だから正月は人が来るから無理だって言ってるだろ!なのに何で私の家で年越しパーティを開こう、なんて考え付くんだ!」
ちったぁ考えろ!、とお怒りモード突入フレア。
「やっだなぁ、フレアってば。そんな常識的な事言っちゃってv ていうか寝言じゃないしね〜」
対するナナはにっこにっこと笑いながら、指を顔の前で振った。
「だってさ、フレアのお友達ともお知り合いになりたいし、何よりフレアん家って大きいじゃん!いくら騒いでも苦情とかこないっぽいから、宴会会場としては最適だよ!」
うんうん、と一人納得するように首を縦に振る。フレアの怒り測定ゲージは、ナナの、余りに自分勝手な発言によってぐんぐん溜まっていく。そしてそれが頂点に達し、怒り度MAX状態で言い返そうとした、その時。
ナナは「あ、もしかして」、と手を打った。
「やっぱりフレアの事だから、お正月に来るのは本当は恋人で、“お正月は二人だけで迎えたいの♪”とか思ってるから、無理ー!って感じだったりするのかなぁ?」
先ほどからやけに笑顔でいると思ったら――やはり今日のナナからは相当黒いオーラが出ていたらしい。 にゃはっ、と当社比300%増くらいに黒い笑顔を浮かべている。……はっきり言って、書いてる作者も非常に不愉快な気分になるほど黒い。
そしてそんな黒すぎるナナに呑まれてしまったようだ。
フレアは顔を紅く染めて――罠に嵌った。
「そ、そんなワケあるか!! いいだろう、パーティでも何でもやってやる!!!」
言い終えた後でしばしの沈黙。どこからか「あちゃー」と言う声も聞こえてきていた。
だが、我に返っても時既に遅し。
ナナは懐からボイスレコーダーを取り出して、フレアの台詞をリピートさせた。
『そ、そんなワケあるか!! いいだろう、パーティでも何でもやってやる!!!』
満面の笑みで微笑んで、興味津々で見守っていた皆の方へ振り返る。
「ってことでぇっ! 大晦日から新年へ向けて、フレアん家で年越しパーティ開きまーっす!!
参加したい人は大晦日、フレアの家の前で集合! 来てくれるかなーっっ?!」
耳元に手をあてて、ポーズを取る。
皆が返す言葉は決まっていた。
「「「 いいともーっっっ!!! 」」」
――って、オィオィ!
* * *
やって来ました大晦日。
肌寒いその日の朝、豪邸とも呼べるフレアの家の前にはちゃくちゃくと人が集まっていた。
「お、尚ちゃーん!こっちこっち!」
片手をあげて大きく振っているのは諸悪の根源……もといブラックナナさんだ。
その周りには既に結構な人が居る。ここで名前をあげてもわからない人がいるかもしれないが――まぁ、正月だし細かいことを気にする必要もないだろう!
という事で、来ている人を紹介するとしよう。
まず先ほどやってきたのはハリセン馬鹿こと山下君だ。やってきた瞬間から黒い馬鹿……いや、美沙君にからかわれている。この二人の間柄も今年は少し進展するといいのだが。……と独り言、独り言。
他は当然のように喧嘩している刳灯とココロや、どこから情報を仕入れてきたのか、学長までいたりした。……恐らく、沙雪さんが参加する、という事を聞いてやってきたのだろうが。
あと、ナナの近くに居る羽耳さん。彼女の名前はラーファンと言い、夏場は相当な露出になる年頃の娘さんだ。そしてそのラーファンとおしゃべりをしているのはR学園でひそかにファンクラブなんかも設立されている女王様、シーミナ。今日も相変わらず素敵な笑顔を見せている。
少し離れた所にはピスティアとプリスタがいる。ピスティアはエルフの娘で、何を間違ったのか一時期山下君に惚れてたりしていた人だ。プリスタはと言うと、そんなピスティアに振り回される……所謂、苦労人の類に入るヤツだった。
……とほぼ“いつものメンバー(プラスα)”ではあったが、まぁ、兎に角ナナの企画(?)は成功のようだ。
事前に来る人はナナにそれを伝えていたらしい。何やら名前が書いてある紙に丸をつけると、「よし」と頷いて皆の注意を引くために両手をあげた。
「一応参加者全員集まったから、早速フレアん家突入しよっか!」
集まった人達は、それぞれに返事をして頷いた。
「んじゃ、いざぁ参れえぇっ!!」
ナナの掛け声(?)と共に、一向はフレアの家へと入っていった。
中に入ると、そこは既にパーティ会場と化していた。
派手な飾り付けに、壁際にあるいくつもの豪華な花束。天井にはご丁寧にも(!)ミラーボールまでついている。……まさしく、“宴会会場”である。よくよく見ると、某サンバの衣装なんかもあるようだ。
「うっわー、何だかんだ言ってフレアったらヤル気満々じゃんかぁ♪」
ひゅぅ〜♪と口笛を吹くナナ。確かに会場を見る限りでは、ヤル気満々である。
……と、フレアがやってきたようだ。
「やっぱり来たか……まぁ、一応いらっしゃい。他のヤツ等も、もう来てるからこっち来いよ」
そう言ったフレアの後についていくと、会場よりは若干小さな部屋に通された。そこには既に数名の男女が居て、ぞろぞろと入ってくる一行を出迎えた。
「とりあえずコイツ等の名前の紹介だけしておくな。お前等の事は後から自分で話したり出来るだろうし」
まず……、と左の方に居る金髪の少年を指差した。
「まぁ、言わなくてもわかってるだろうがファルギブだ。アイツも昔からの知り合いでな。
……でその隣がアスレア」
紹介されたファルとアスレアが軽く頭を下げた。
「んでこっちの小さいのがリーテスで、水色頭がティカ」
「ちょっと、小さいのは余計なんだけど!」
眼帯を付けた……確かに小さい少年が怒り気味に返す。その隣でティカ、と呼ばれた青年が意地悪そうに笑っていた。
「後は――っと、あ、来た来た。おぃ、アルスラ!」
キッチンの方のドアから紅い髪の女性がやってきた。その手には料理の乗ったトレイ。
……じ、実に美味そうである。
「あ、フレアの友達が来たのね。こんにちは、アルスラよ」
アルスラはにっこりと微笑むと、そのままパーティ会場となっている客間へと入っていき、フレアの知り合いの5人もそれについていった。
「……と、こんな所だ。後は各自で紹介でも何でもすること」
皆は深く頷く。
それを見たフレアは「よし」と言うと、パーティ会場へ促した。
そして宴が始まった。
まさしく飲めや歌えや、の騒ぎで、周りに家があったら確実に苦情がくるだろう、と思われるくらいに煩かった。家に入ってからすぐに見た、例のサンバ衣装もきっちり使われていたようである。
料理は全てフレアと一緒に暮らしているグリッセルのお手製で、それはそれはほっぺたが落ちるくらいに美味しいものだった。それにパーティ参加者は何かしら家から持ち寄っており、デザートの類もたくさんあった。
そして言わずともわかってる方がおられるかもしれないが――
大ジョッキに汗を滴らせて浮かぶ琥珀色の液体。
グラスに入った緋色のモノ。
――などなどなど。
お前ら未成年だろうが、というツッコミが繰り出されることはなく、酒も振舞われていた。
酒のせいもあるかもしれないが、相当ハイな雰囲気の中で、フレアは一人ジュース片手に楽しんでいた。しかしジュースを飲む人間は少ないので、当然のように量も少なかったようだ。
空になったペットボトルをゴミ箱に入れ、辺りを見渡す。
すると少し離れたテーブルに、グラスに入った白ワインが並んでいた。
その時、どうしても喉を潤したかったフレアは「仕方ない」と呟くと、人を押しのけてグラスを手にとった。
「ありゃ、フレアそれお酒だけど大丈夫なのぉ〜?」
琥珀色の液体――早い話がビールを持ったナナが話しかけてくる。勿論、顔は真っ赤になっており、その隣では同じようにビールジョッキ片手に出来上がっている美沙君も居た。
「そうだぞぉ、ふれあぁ。お前さっきから見てたけど、ジュースしか飲んでなかったじゃないかー」
なははははは!!と2人とも完全に酔っ払いになっていて、ものすごいウザったい。
フレアは忠告(?)を無視すると、一気にグラスを煽った。
そして図ったように鳴り響く、刻の音。
時計の針は12を指して重なっており、それは新年の幕開けを意味していた。
「おー、もう2005年ですかぁ……んふふふ、今年もよろしくね〜ん」
ナナのその言葉を合図に一斉にグラス……またはジョッキが高く持ち上げられた。だが、先ほどワインを一気飲みしたフレアはその状態から動いていない。
流石に家主をほっておいて新年の挨拶をするワケにもいかない、そう思ったのだろうか。ナナはフレアの頬をパチパチと叩いた。
「おーい、フレアぁ。新年ご挨拶ですよー?」
すると焦点のあってなかった目がナナの顔の辺りで止まり……フレアはグラスを高く持ち上げた。
「あれまひておめれとうござんはすーっ!!」
一体何があったんだ。
その場に居た全員が、思わず鳥肌を立たせていた。
さっきの、思いきり呂律の回っていない言葉は紛れもなくフレアの出したもので。……という事はもしかしてワイン1杯で酔ってしまったという事なのだろうか。
「あんれへ? 皆おめれとーはぁ?」
にこにこ、と普段のフレアからは考えられない――いや、考えたくないほどの笑顔だった。皆はそれぞれのグラスやジョッキを高くかかげた状態のまま、固まっている。
当然、酔いなどとっくの前に醒めてしまっていた。
「ほら、おめれとーらよ。 はい、っせーのぉで」
「2005年、おめれとー!!」
「「お、おめでとー……」」
一番盛り上がるはずの場所で何故か盛り下がってしまい(というより、恐ろしかったようだ)皆はぼそぼそと新年の挨拶をした。
* * *
結局家主のフレアがべろんべろんに酔ってしまったので、その後すぐにパーティはお開きになった。
ナナ達はこれから近くの神社に初詣に行くと言い、フレアの知り合い5人は別の所でやる事があるから、とそれぞれに家へと帰っていった。
そして静まり返った家の中。
「ところでマスター。貴方、確かお酒はかなりの上戸だったはずですよね?」
グリッセルが玄関で皆の後姿を見送りながら呟いた。
すると先ほどまでは全く呂律の回ってない口調だったはずのフレアがやけにはきはきと返してきたのだ。
「当たり前だろう。酒は飲んでも呑まれないんだよ」
……ちなみに“上戸”とは酒に強い人の事を指す。どうやらフレアは酔った“フリ”をしていただけらしい。
グリッセルは扉を閉めながら息を吐くと、吹き抜けになった2階に居るフレアを見上げた。
「全く、何でまたそんな皆さんを騙すような事をするんですか。新年早々、嘘をつくだなんていけませんよ」
「でも仕方ないだろう?グリス。そうじゃないと“二次会”が開けなくなる」
ストッ、と小さな音を立てて上から飛び降りる。
そして先ほどまで皆が居て、散らかり放題だった客間のドアを開けた。
「ちょっと遅かったわよフレア」
ウェーブのかかった紅い髪の魔女。
「ま、こんなモンなんじゃねぇの」
長い金髪の魔法使い。
「……十分に遅いと思うけどね。早く座ったら?」
眼帯をした守人の少年。
「ちょっと待て、何で俺の前の皿だけピーマンばっかなんだ!」
水色の髪の弟子持ち魔法使い。
「久しぶりだな、元気でやっていたか?」
黒いストレートを靡かせて立ち上がる創造主。
フレアは久しぶりに見る顔に、思わず笑みを零した。
客間のドアをそっと閉め、一つ、空いていた席に腰掛ける。
そしてグラスを高くあげて、こう言った。
「さぁ、宴のはじまりだ!」
x x x
さてはて、こちらは近所の神社。
お参りをした後、そこで配っていた甘酒を飲みながら、ふとナナは考えた。
(あっれー?よく考えればフレアってお酒強くなかったっけ?)
思い返せば、あの酔い方は半端じゃなかった。……というより、余りに大げさだった。
(まさか演技だったとかぁ?)
ずずずずっ、と甘酒を啜りながらそう思ったものの。
(――ま、どうでもいっか!)
ナナにとっては、フレアのアレが演技だろうと演技でなかろうと関係ないようだった。
紙コップの底を持ち上げて最後まで飲み干すと、再び甘酒を配っているテントに行って、軽く手をあげる。
「オバちゃん!甘酒もう一個ちょーだ〜い♪」
新しい紙コップの中には暖かい甘酒。
ナナはただ甘酒の事だけを考えて、にんまりするのだった――
ま、っちゅー事で、今年も1年よろしくしたってくださいませ!!
F i n .
| TOP |