あぁ……そうだ。
私は今更ながらにこの言葉にショックを受けていたのだった。
第16話 「四人目の前に」
「これで……三人。じゃぁ、次は四人目?」
一体何の人数なのかはまだよくわからないけれど、とりあえずそう訊いた。
まぁ、普通に考えれば四人目だろうし……訊くまでもなかったかな?
いらない質問をしてしまったかも、と少し焦って顔を下げるとルカの手が目に入った。
マグカップの脇に置いてあるその手は、ゆるく握っただけの状態だったのに……突然、ぎゅっと握られた。
「――いや、違う」
その言葉に顔を上げる。
見ると眉を顰めて、どこか耐えるような表情をしていた。
そして言う。
「その前に、出会ったヒトが居る。……本当なら、話したくも無いけど……」
「えっ、と……じゃ、あ話さなくてもいいよ?!」
あまりにルカの様子がおかしいので、つい僕はそう言っていた。
けれど首を横に振ってそれを拒否される。
「いや、だめだ。確かに話したく無いけど……たぶん、一番重要な所だろうから……」
固く握り締められていた手が一瞬ゆるめられ、でもすぐにまた握られる。
「話す――よ」
僕はただ、小さく頷いた。
× × ×
「三人目のクルルと出会って数日が経っていた。
その頃、作った体で完成まで持っていけていたのはクルルに使った1つだけで、私達はまた新しい体を作る研究をしていた。
成長するけど死なない体を持つリューイとステア。
てっきりクルルにも似たような結果がでると思っていたが、それは私達の思い違いだった。
これは後からわかったんだが……私たちが魔力を加えて助けた・生き返らせた場合、最低でも3パターン出来るらしかった。
まず1つはリューイ達のように、瀕死の状態に魔力を加えて助けた場合。
この場合は死なない体にはなるけれど、成長はする。――だから、定期的に魂を入れ替える体が必要。
2つ目はクルルのように、1度死んだ人間の魂を新しく“作った体”に移し変えた場合。
死なないし、成長しない体になる。けれど体の機能は年月と共に古くなって腐るから――同じように、定期的に魂を入れ替える体が必要。
もう1つは……これから、話すからまた後で、な。
どういう風にそのパターンが決まるのかはよくわからなかったけれど、たぶんそれは“魂の情報”と魔力が関係してるんだと思っている。
この世界に生まれたものは、生まれる時に一定の魔力を持って生まれてくる。
魔力というのは、読んでそのまま、魔の力。わかりやすく言えば、魔法なんかを使う為に必要な力だ。
魔力の単位はMKL(ミケロ)と言って……これは力の大きさでもあるが、広さも表している。
普通魔法を使うには精霊や、自然の力を借りる必要がある。その借りた力を収納するスペースが“魔力”と呼ばれる場所だ。
だからこれが多ければ多いほど、たくさんの力を借りれて、大きな魔法も使えるようになる。
で、この魔力というのは――死ぬと、全て失われるらしい。
リューイ達の場合は、まだ“死んでない”から、魔力も残っている。
だから、老いる。 体を移し変えても、成長する。
クルルの場合は、1度“死んだ”から、魔力は無くなっている。
だから、成長しない。 何も変わらない体のまま……月日が経ったら、“作った体”だけが腐る。
元々魔法を使う人だった場合、魔力が残っているなら当然出来る。
クルルのような場合でも、“作った体”に魂を入れるときに一緒に籠めた魔力の範囲内なら使える。……まぁ、普通の人間だから範囲外になるなんて事は到底無いんだけどさ」
……。
……え、えーっと……う、うーん。
僕は頬をかきながら口の端だけ上げて笑う。
――ルカの言った事を、ほとんど理解出来なかったからだ。
そんな僕に気づいたのか、ルカは「あ、」と口に手を当てて笑った。
「いや……さっきの魔力云々は理解出来なくてもいいんだ……悪い、つい語ってしまって。
パターンがあるっていう事だけ覚えてて貰えれば大丈夫だ」
「そ、そう?」
小さくそう言った僕に、ルカは「あぁ」、と微笑んだ。
「兎に角、“新しい体”は最低限3つは必要だった。
当然すぐに移し変えるわけではなかったんだけど……その時になってあたふたしてられるようなものじゃないからな。
それまでは色んな場所を転々として、少しずつ作っていたんだが3つも作るとなるとそれは難しかった。
1つは完成形まで出来たとは言え、技術としては完全じゃなかったしな……。
だから危険だとはわかっていたが――私達はしばらくの間、ある村に滞在する事にした」
ふぅ……と息を吐いた音が聞こえた。
相変わらず手は強く握られたままだった。
「何の変哲もない普通の村だった。
私達はその村の周りにある森の脇に建つ、1軒の家に住ませて貰う事にした。
最初は今までみたいに宿に泊まるつもりだったんだけど、長期滞在の予定だ、というとその主人が教えてくれたんだ。
『森の脇に無人の家があって、そこに住んでた人はもう亡くなってしまったから今は村が管理してるんです。長期なんだったらそこの方がいいかもしれないですよ。……あ、勿論掃除なんかは定期的にやっていますから、すぐにでも住めると思います』
と、ね。
私達はそうする事にした。
そりゃあ、宿に泊まるよりはお金もかかるだろうし大変かもしれないけど……“バレる”可能性がぐんと低くなるんだ。当然こちらを選ぶに決まっていた。
宿の主人にどうやったら借りれるのか、と訊くと村長に会いに行って欲しいと言われて、私達は会いに行った。
他の住民の家より若干大きな家屋。
出てきた村長は気のよさそうなおじいさんで、宿の主人に言われてきた、というと二つ返事で貸してくれる事になった。
料金はとりあえず1ヶ月分前払いして、鍵を貰ったり、空調なんかの設備について教えて貰いながらその家まで一緒に行った。
着くと、そこは本当に森のギリギリの所に建っていた。
宿の主人は“家”と言っていたが……これは“館”のサイズだった。まるで物語の貴族が住んでいるような、大きな館。
聞けば、かなり金持ちだった魔法使いが住んでいた所らしい。
『何やらよくわからん設備が置いてあるようじゃ。アンタ達も触らんようにした方がエェじゃろうよ』
村長はそう言っていたが、こっちとしては願ったり叶ったりだ。そういう事をする為の設備が整っている場所なんてそうそう無い。
ガチャガチャと鍵を開ける村長の後ろで、つい3人ともガッツポーズをしてしまっていたくらいだ。
ちなみにこの時、この場所には私とファルギブ、アルスラの3人しか居なかった。
グリッセルは宝石の中に戻っていたし、レイサーは夢の中(目には見えない精神世界だな)。クルルとリューイ、ステアの3人には最寄の街で当面必要な物を買ってきて貰っている所だったからな。
『開きましたぞ』
ギギギィ……
音を立てて開かれる扉。
中に入ると、そこは正に館。外観に相応しい内装だった。
吹き抜けのフロア、そこから2階へと上がる階段がある。丁度バルコニーのような形でついてるから開放感もあるし、何より広い!
再び後ろでこっそりガッツポーズをしていると、2階から突然声が聞こえた。
『あっ……!』
見上げてみたら左側の通路に子供が居た。
明るい色の赤の髪、見開かれた瞳は綺麗な黄緑。……と、そういえば、村長も――
『アーシアル!!何故ここに居るんじゃ?!』
その子供と同じような黄緑の瞳を目いっぱい見開いて、村長が言った。髪は綺麗な白髪だが、きっと昔は赤色だったのだろう。
『お、おじいちゃんこそ……な、んで?』
恐る恐る、といった感じに手すりの間からそう言った子供に村長は怒ったように返す。
『こちらの方々がこの家を借りられたのじゃ!だからわしは案内してきたんじゃが……お前は、また合鍵勝手に取って入っておったな?!』
なるほど、大体話は読めた。
……というか、誰がどう見てもすぐにわかる事なんだけど。
どうやらあの子供は村長さんの家の子供で、合鍵をすぐに取れる状況で……この家を遊び場にしていたらしい。
『またあの部屋に入っておったんじゃな!? アレは危険だと何度も言っておるだろう……何故わからん?!』
『ご、ごめんなさい……』
しゅるるる……と小さくなっていくのがわかるようだった。
村長は大きく息を吐いて、
『……兎に角降りてきなさい。――すいませんなぁ、わしの孫なんです』
申し訳なさそうにこちらへ言った。
そして降りてきた子供を横に立たせて、挨拶するように促す。
『あ、えっと。アーシアルです。アーシアル=ウィルダデントって言います』
恥ずかしそうに顔を紅くしながらの挨拶。人見知りが激しいようだった。
こちらから見上げている時はもっと小さい子かと思っていたが、こうして同じ場所に立つとそうでは無いことに気づく。
……10歳……頃、かな?
『こんにちは、アーシアル君。 私はルカ。こっちはファルギブとアルスラって言うんだ。――君はよくここに来るの?』
こちらも軽く紹介をして、そう訊いた。
その問いに彼は口ごもりながらも答えてくれた。時折村長の方を見ていたのは、先ほど怒られたのがきいているのだろう。
『は、はい。その……ここには、魔法の事色々調べられるものが……あるから』
『魔法?』
返ってきた答えが意外でつい訊き返すと、今度は村長が答えた。
『この子は魔法が使えるんですじゃ。でもわしを含めて家族はおろか血縁の者は誰もそんな事は出来んで……。というより、そもそもこの村には魔法を使える人間がおらんかったんで、教わりたくても無理でしての。
丁度この子が生まれた頃にここに住んでおった魔法使いも亡くなってしもうて……でも書物や道具はそのままにしてあるんで、時々ここに来て本を読んだりしとるんです』
――でも一人で行くのは禁止しとったんじゃが……、と付け加える。
『へぇ、魔法が……それはすごいね。 何か得意なものとかはあるの?』
私のその言葉にアーシアルはパッと顔を輝かせて大きく頷いた。
『うん!さっきも読んでた所なんだけど……火、とか、出せるよ!』
そして「見てて!」と言って、右腕を突き出した。
ぐっと握って、腕全体を上下に振ると同時に開く。
『炎《フィア》!』
何も無い空間が一瞬光って――
ボボボボウッ
『ちょっ、まっ?!?!』
ファルの焦った声が横から聞こえた。
そりゃ焦って当然……アーシアルの出した炎は今まさにこちらへ襲いかかろうとしていたのだから。
『ッ……消去《イレイズ》!』
咄嗟に“魔法”を使って消していた。
シュウウゥ、という音を立てて無くなる炎。……とりあえずは助かった、けど。
『ま、魔法だ……!魔法が使えるんだね?!』
さっきよりも、もっと顔を輝かせたアーシアルにそう言われて――しまった、と内心舌打ちをした。
わざわざ“普通じゃない”事をバラしてどうするんだ……、と。
『ま……ぁ、ね。 でっ、でもあんまり上手く使えないからっ!』
慌てて言い繕うも、キラキラ輝くような表情は無くならない。
そして、言った。
『僕に魔法教えてください!』」
* * *
「それから、アーシアルは本当に魔法を教わりに来るようになった。
私やファルは元々ちゃんと魔法を使ったりしてなかったから原理がよくわからない。なので魔法のエキスパートだったアルスラが教えていた。
幸い、そこには住んでいた魔法使いが集めた書物がたくさんあって教材には事欠かなかったから教えやすかったんだろう。
才能もあったらしくて、すごい早さで腕をあげていっていた。
『ルカ!へへへっ、今日は3つも新しいの覚えたよ!』
『へぇ、すごいじゃないか。頑張るな、アーシアル』
2階からの呼びかけにそう返した。
丁度書斎のような場所があって、そこを勉強部屋として使っていた。魔法道具も置いてあったんだけど、それは村長からの頼みもあって(当然私たちが使うというのもあったけど)地下室へと移動させていた。
『うん、すごい楽しいしねっ』
にこにこと嬉しそうに笑うアーシアルにつられて笑う。
『もう休憩は終わり、続きやるわよ』
ドアが開いてアルスラがそう言った。
『はーい!』
アーシアルが入れ違いに部屋の中に入ったのを確認してから、小さめの声で訊いてくる。
『……どう?そっちは上手くいってる?』
『あぁ、ぼちぼち……だな。でも予定よりだいぶ早く出来そうだ』
『そう――じゃあこことも、あの子ともお別れね……』
閉じたドアを見ながらポツリと呟く。
――この村に来て、3週間が過ぎようとしていた。
このまま、体を作り終えて、魔法も教えきって、明るいままに別れを告げて。
楽しい思い出に出来れば……良かったのに。
ある時、“バレた”」
「その日は珍しくグリッセルとレイサーとでケーキを焼いていて、それをおやつに皆で食べようと集まっていた。
ケーキを切り分けようとするグリッセルを見て、アーシアルが自分が切りたい、と言ったんだ。
グリッセルは快くそれを了承して、ナイフを渡した――その時に、アーシアルが椅子に躓いた。ナイフを持ったまま。
私はそれを咄嗟に助けようとして腕を伸ばして、なんとか倒れるのを留めたけども……
『っ……』
アーシアルが持ったままだったナイフは、私の腕を切り裂いていた。
『るっ、ルカ……!ごめんなさ――……?』
慌てて私の腕を掴んで言った謝罪の言葉は途中で切れた。
……当然か。
切られたというのに、見る見る内に傷がふさがっていくんだから。
頭の中は真っ白だ。バレた、バレた、バレた……バレた。
それだけがかろうじて残っていて、ぐるぐると回り続ける。――気味が悪いって、思われる!
同じように声を失っていた皆を見渡して、目の前の少年は息を吐いた。
『そっか。国が探してるのって皆の事だったんだ?化け物だって言われて、こんな村にも通達が来てた。
でも……――な~んだっ』
そしていつものように、にっこり笑って、
『全然そんなのじゃないのにね! 皆、優しい人達なのに、ね?』
と、言った。
バレた時に……気味が悪いとか、化け物、とか……そういう言葉を言われ続けていたから……それがすごく嬉しかった。
『ごめんね、ルカ。すぐ治るかもしれないけど……痛かったよね。 ありがとう』
涙が出た。
本当に、嬉しかったんだ。
それなのに――ははっ、ったく……あれ程人間不信に陥る状況もないだろうよ!
私達はアーシアルにバレてしまったけれど、大丈夫だと思っていた。
帰り際には「誰にも言わないから」と言ってたくらいだからな……でもそんなの、考えが甘すぎたんだ」
口元を歪めて、ルカは笑う。
泣き出しそうに……笑う。
「どう……なったの?」
僕は恐る恐る、訊いた。
「アーシアルが家に帰ってすぐやった事は、通報だった。
村長に言って、村長がすぐに最寄の街にある王国警備隊に連絡した。
――この村に、化け物がいる、と」
息を呑んだ。
なん……だって?!
「そんなっ、じゃあ……そのアーシアルって子は、嘘……を?」
僕の疑問にルカは頷いた。
「後からわかった話なんだけど――アーシアルの両親、死んでたらしいんだ。それも魔法でなぶり殺しにされた、って。
そして各地で起きていた警備隊による私達の抹殺を目的とした街への攻撃は、全て私達“化け物”がやった、って言われてたらしい……そのせいもあったのかな、兎に角、アーシアルにとって所詮化け物は化け物だった、て事……両親を殺したヤツと同じ、な」
「でもっ!そんな……濡れ衣もいいところだ!」
「そうだ……でも、そんなのわかってくれるはずなかった。ただ、悪者は悪者で――おとなしく退治されろって事だったんだろ……」
……そん、な。
酷いっ……悲し、過ぎる……。
「でもアーシアルはわかってなかった。
通報なんかしたら最後――その村ごと、殲滅しに来るって事を」
* * *
「その日の夜、皆が寝静まった頃……遠くで悲鳴のようなモノがしたような気がして私は起きた。
そして窓から外を見たら――村が、燃えていた。
一瞬で理解した。
嗅ぎ付けられたのだ、と。
すぐに皆を起こして、村へと向かった。
いつもなら……そう、いつもなら防御系の魔法を使いつつ、応戦するくらいだった。
でも今回は違った。防御だけに留めるには足りなかった。
この村の事を知りすぎてしまったから、助けたいと、助けなければ、と強く思える相手が出来てしまったから。
『くそっ、なんで……!!』
私はまだ知らなかったから、誰が通報したのかを。
『アーシアル!! 無事なのか……っ、無事でいてくれ!!』
その張本人を必死で探していた。
――時折向かってくる警備隊を、いともたやすく、……殺しながら。
村長の家までやってきて、顔に飛び散った返り血を袖で拭う。
見た目には無事だったその家に入って、あまりの惨状に言葉を失くした。
広間に飛び散る村長の死体。
頭、腕、足、胴体、指……一体何分割されていたのか、想像もつかないくらいに切断された遺体。
それが私達のせいなんだと思うと、悲しくて、情けなくて、申し訳なくて。
でもその中にアーシアルの“部品”が無いのに喜んで――本当に、最低なんだ私は。
広間から抜ける小部屋から調べて行って、1階には何も無かった。
2階へ行こうとした時、ファルとアルスラもやってきた。
『……もう、ダメだ。皆死んでる……』
『そう……か。 警備隊は?』
『それも全滅。あたし達が殺したのもあれば、火に巻かれて死んだのもいるみたいよ』
重い空気が立ち籠める。
外は火の海だ。私達にとっては問題ないけれど、それでも長居はしたくない。
『アーシアルは? 見つけたのか?』
『いや、これから2階を見るところだ……でも、……兎に角、行こう』
2階へ上がり、手前の部屋から開けていく。
そして一番奥の部屋で。
『……なん、で……こんな事になるんだろ……な……』
胸を貫かれて絶命するアーシアルの死体を見つけた。
背中から刺さった剣は柄だけを残して全て埋まり、刃は心臓から生えていた。
瞬間的に頭が計算を始める。
体はまだ完成していない、どれくらいで完成する?完成するまでに魂を残しておく事は出来るのか?
そんな事出来るはずが無い。 魂を移し変える事自体が自然の理に反している。留めておく事なんてもってのほかだ。
じゃあどうすればいい。どうすれば、どうすれば、どうすれば。
どうすればアーシアルは生き返るんだ?!
ダンッ
ファルが壁を叩いた。
見るとファルも、アルスラも……同じような表情をしていて。
考えることも――同じ、か。
その時、不意にアーシアルの体が目に入った。
あぁ……なんて事だ!何故気づかなかった!原理的には同じ条件だったのに……!
『出来る、生き返らせられるっ。――本人の体を使えばいいんだ!』
それからは早かった。
すぐに剣を抜いて傷を治し、綺麗な体にして床に寝かせた。
魂がまだ体の中に入っている事を確認して、魔力を籠める。
失われた機能を戻すように、精神と肉体を結びつけるように。
目に見えるほどに明らかな過ちを犯している事すら気づかずに。
私達は、彼を生き返らせた」
「すぐには目を覚まさなかったアーシアルを借りていた家へと連れ帰った。
幸か不幸か……私達の家は見つからなかったらしい。村から離れていたし、森に囲まれた形だったからだろうと思う。
ったく、皮肉なもんだよな。本当に狙うべきところは丸まま残ってるなんて。
ベッドに寝かせたアーシアルが目を覚ましたのはそれから30分程経った後だった。
その間に私達は火を消し、――無駄だとはわかっていても――壊された家々を直してきていた。
そして丁度部屋に入って様子を見ている時に、目を、覚ました。
『……ん……』
僅かに動いた体。聞こえた声。
あぁ……生きてる。生きてるんだ!
心臓は動いていても、反応がなければ死んでると同じだから、こうして反応があって、目を覚まして……やっと生き返ったんだと実感出来た。
『
アーシアル!』
思わず駆け寄った。
その声が聞こえたのか、両目が少しずつ開かれていく。
綺麗な黄緑色の瞳。また笑いかけてくれる! そう思っていたのに。
開かれた目は、右と左で色が違っていて。
睨む様な視線をこちらへ送りながら、
「
よるな、化け物!」
そう――言わ、れ……たんだ」